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「平和を世界に」刻んだ訴え 版画家鈴木賢二の代表作 広島で今夏初展示 67年前 第4回原水禁世界大会に出展

 核兵器禁止を求めるデモの群衆などを力強い木版で表現し、1958年の第4回原水爆禁止世界大会(東京)で披露された版画絵巻「平和を世界に」が今夏、制作から67年を経て精細なレプリカの形で広島市で初展示される。栃木県出身の版画家鈴木賢二(1906~87年)の代表作。「被爆80年の節目に広島で公開したい」と関係者が企画した。(道面雅量)

 「平和を世界に」は連作40枚による全長12メートルの絵巻で、10曲1双のびょうぶ(高さ33センチ、幅各6メートル)に仕立ててある。戦前の穏やかな庶民の日常に始まり、兵役に向かう隊列、原爆の閃光(せんこう)と被爆地の惨状、米国の水爆実験に日本漁船が被災した第五福竜丸事件、原水禁運動の高揚…と、時系列に沿って物語を展開。木版ならではの鋭い輪郭線に力感がみなぎる。

 作者の鈴木は、昭和初期のプロレタリア美術運動にも参加、社会的なテーマの作品を数多く残した。東京美術学校(現東京芸術大)で彫刻を学んだが、学内で軍事教練反対のビラをまいて退学処分に。中国の作家魯迅(ルーシュン)が主導した、抵抗に立ち上がる民衆の姿を版画に刻む「木刻運動」に影響を受け、戦後は版画に創作の軸を据えた。

 「平和を世界に」は、栃木県益子町にアトリエを構えていた52歳ごろの作だ。広島や長崎からの平和行進も迎えて熱気にあふれた第4回大会で、主会場の早稲田大記念会堂に展示された。参加各国の代表が余白に署名し、日本原水協理事長だった国際法学者の安井郁(かおる)も「大衆が平和をまもり 大衆が未来をつくる」と書き入れた。

 広島での展示は、鈴木の四女解子(ときこ)さん(79)と夫の星野進さん(77)たちでつくる「賢二版画絵巻プロジェクト」が主催する。2023年に栃木市で展示して反響が大きかったことから、全国各地や海外での展示も視野に、傷んだ部分の修復や展示用のレプリカ作りを進めてきた。

 26~29日、広島市中区のJMSアステールプラザ市民ギャラリーで、他の鈴木作品40点と合わせて展示。入場無料。28日午後6時半から詩の朗読などのパフォーマンスもある。8月4、5日にも、日本原水協、原水禁国民会議、日本生活協同組合連合会などがそれぞれに集会を催す中区の広島グリーンアリーナに出展する。

 「社会に真剣に向き合う姿をいつも見せていた」と、父の思い出をたどる解子さん。「盛り上がっていくさなかの原水禁運動の熱気を伝え、絵巻に込められた思いを次代につなぐ展示にしたい」と願う。

(2025年7月19日朝刊掲載)

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