広島二中の悲劇 漫画で再び 広テレ ドキュメンタリーの名作「碑」
25年7月19日
事実を淡々と 次世代に訴え
広島テレビが1969年に放送したドキュメンタリー番組「碑(いしぶみ)」は、建物疎開作業の学徒動員で被爆死した広島二中(現観音高)1年生の一人一人の足取りを、遺族への取材で明らかにした貴重な記録だ。被爆80年を迎え、番組を漫画化した「漫画いしぶみ 原爆が落ちてくるとき、ぼくらは空を見ていた」=写真=がポプラ社から今月刊行された。過去の「名作」を時代に沿った新しい形で語り継ごうと試みる。(渡辺敬子)
爆心地から約500メートルの本川左岸に動員された1年生は、被爆から数日のうちに全員が亡くなった。彼らはどのように家を出て、爆発の瞬間を記憶し、最期を迎えたのか―。四半世紀近くを経て広島テレビは遺族から手記を募り、取材を重ねた。子を奪われた親の悲しみや、親を気遣う少年のけなげな言葉を、映画監督の松山善三さんたちが台本に構成。遺影が並ぶスタジオで撮影し、広島市出身の俳優杉村春子さんが朗読した。
番組は大きな反響を呼び、シナリオを基にポプラ社が翌年出した「いしぶみ 広島二中一年生 全滅の記録」は今も読み継がれる原爆関連書籍のロングセラーとなっている。2016年には英語版も出した。
漫画化を提案した広島テレビの佐藤宏取締役東京支社長は、被爆70年の15年にプロデューサーとして「碑」のリメークを手がけた。映画監督の是枝裕和さんが演出し、広島市出身の俳優綾瀬はるかさんが朗読した番組「いしぶみ~忘れない。あなたたちのことを」。翌年に映画版も公開した。「親しみやすいメディアが若い世代との橋渡し役になり、原爆を扱った過去の映像作品や書籍にも興味を広げるきっかけになれば」との狙いは一貫している。
「漫画いしぶみ」は漫画家サメマチオさんに執筆を依頼し、1年半かけて完成させた。生々しさを抑えたタッチで悲惨な事実を淡々と描き、遺影を丁重に盛り込んでいる。サメさんは「自分が原爆という題材を描くにふさわしい人間か分からない」と悩みながらも、「漫画家として生かせる技術を持っているなら、生かすべきだ」と自らを鼓舞したという。
広島テレビは、広島市立の小中高校や県内の図書館への寄贈も予定。「この80年間に核兵器が使われなかったのは、被爆地が声を上げ、メディアも訴え続けてきたからと信じたい」と佐藤取締役。「広島のメディアとして真価が問われるのはこれから」と力を込める。
番組再放送や映画上映
広島テレビは69年の番組「碑」を8月3日午前2時15分から、15年の番組「いしぶみ」を4日午前1時55分から放送する。4日午後4時から、広島市東区の同社ホールで映画「いしぶみ」を無料上映。映画に出演し、漫画に解説を寄せたジャーナリスト池上彰さんが登壇する。
(2025年7月19日朝刊掲載)