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社説・コラム

天風録 『小さな一歩』

 月の石を大阪・関西万博の米国館で見た。55年前の前回万博で披露されたのとは違う石らしい。そこで考えてみる。これまで人類は月から幾つの石を持ち帰ったのかと。星の数ほど転がっているうちの、ほんの一部だろう▲福島県の土が東京の首相官邸に運び込まれた。福島第1原発の事故後、除染で出た土だ。福島県外での最終処分を国民に理解してもらい、受け入れ先を増やす狙い。しかし官邸前庭で使うため搬入した量は約2立方メートル▲除染で出た土や廃棄物約1410万立方メートルが、福島の中間貯蔵施設に搬入されている。これを2045年3月までに県外で最終処分する、と法律に明記している。官邸の庭は初の再利用例だが、何と小さな一歩か。20年間で全て運び出せるか▲気が遠くなるのは福島第1原発からのデブリ取り出しも同じ。1~3号機で計880トンとされるが、取り出せたのは計約0・9グラム。仮に1日3グラムずつ取り出すとして、そろばんをはじいても、完了はざっと80万年後だ▲もちろん未曽有の事故だったのだから、一足飛びには解決できまい。一歩一歩進んでいくのみ。だが原発に依存しないという方針を、国はとっくに覆している。大丈夫なのか。

(2025年7月23日朝刊掲載)

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