[被爆80年] 小頭症被爆者と支えた記者の日々 「きのこ会」歩み一冊に
25年7月27日
平尾事務局長が出版 偏見・差別 闘いたどる
原爆小頭症の被爆者や家族たちでつくる「きのこ会」の活動と、会を支えた元中国放送記者の秋信利彦さん(2010年に75歳で死去)の足跡をまとめた「広島のともしび」(地平社)が出版された。同会事務局長の平尾直政さん(61)=広島市中区=が会報や生前の秋信さんの言葉を基に、偏見や差別と闘ってきた姿を丹念にたどった。(小林可奈)
小頭症被爆者は妊娠初期の母親の胎内で放射線を浴び、生まれながらに知的、身体障害がある。本書は当事者や家族たちの証言、手記などから、原爆傷害調査委員会(ABCC)が胎内被爆の小頭症児を確認しつつ「栄養失調が原因」などと対応した実態や、他団体から「物取り主義」とやゆされた苦しみを伝える。
秋信さんは取材を通じて小頭症被爆者の存在を明らかにし、1965年のきのこ会発足を支援した。当事者たちを「伝える立場」から「守る立場」に転じ、取材の仲介や原爆症認定の交渉などを担う事務局の一員になった。こうした経緯もつぶさに描く。
秋信さんは75年、昭和天皇の記者会見で原爆投下への受け止めを聞いたことで知られる。その背景に原爆小頭症の被爆者の存在があったことも、本人の言葉から浮き上がらせる。
著者の平尾さんも元中国放送の映像記者として当事者や家族を取材。支援活動にも携わってきた。「秋信さんという1人の放送記者の姿勢とともに、当事者と家族の人生や苦しみ、核兵器の罪を知ってほしい」と願う。四六判、312ページ。2640円。
(2025年7月27日朝刊掲載)