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中国経済クラブ 講演から 核廃絶とパグウォッシュ会議 NPO法人ピースデポ代表 鈴木達治郎氏

核軍縮が遠のく今 科学者の責任訴え

 中国経済クラブ(苅田知英理事長)は30日、広島市中区の中国新聞ビルで講演会を開いた。NPO法人ピースデポ(横浜市)の鈴木達治郎代表が「被爆80年核廃絶への道とパグウォッシュ会議広島大会の意義」と題して語った。要旨は次の通り。(下高充生)

 現在、核軍縮は進んでおらず、核使用リスクが高まっている。世界の核弾頭の総数はピークの約7万発から今は約1万2千発まで減っているが、現役の核弾頭の数は増えている。北東アジアで核戦争が起こった場合、日本や韓国の軍事基地が戦術核で目標とされる可能性がある。「核の傘」に守られているというが、このようなリスクを認識する必要がある。

 数だけでなく、中身が変わってきている。米国は核弾頭の数を減らしても核抑止力を維持するため、スマート核兵器を造り始めた。核弾頭の出力を変動でき、精度を向上させて使いやすい核兵器を開発している。ロシアも対抗して、ミサイル防衛をかわす新しい兵器や、核弾頭を搭載できる魚雷を開発している。サイバーや人工知能(AI)の発達も影響し、核軍縮の議論は核兵器だけに収まらない。

 核抑止を乗り越える代替案の一つとして「非核兵器地帯」を説明したい。核保有国が特定の地域の非核保有国に対し、核の使用や威嚇をしないなどと条約で約束し、核兵器を持たない国の方が持つ国よりも安全だと証明できる。

 既に世界では、南半球の陸地はほぼ非核兵器地帯となっている。核兵器のない世界の実現は無理だという声もあるが、非核兵器地帯に入っている国の方が、核保有国や「核の傘」に依存している国より多くなっている。

 11月に広島でパグウォッシュ会議の世界大会を開く。会議の理念は対立を超えた対話と科学者の社会的責任。科学者は国家や組織を代表するのではなく、科学的知見で議論し、専門的な知識や判断力を基に科学技術のもたらす負の影響について社会的に訴え、警告を出す責任がある。会議の目標は核兵器や大量破壊兵器だけではなく、戦争の根絶だ。

 パグウォッシュ会議は1995年にノーベル平和賞を受賞した。核軍縮に関する条約の基本になる考え方を提供してきた。広島での会議では、被爆者と対話し、地域紛争、核戦争の影響などを議論し、広島宣言を発表する。

 核戦争による人類滅亡の脅威に警鐘を鳴らした「ラッセル・アインシュタイン宣言」をもう一度思い出し、軍事力では国際紛争を解決できないということがメインテーマとなる。核軍縮という言葉がなかなか使えない情勢だが、広島で開く以上、核兵器をなくすためにコミットメントしなければならない。

すずき・たつじろう
 1978年米マサチューセッツ工科大プログラム修士修了。88年に東京大で博士号(工学)。原子力委員会委員長代理、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)のセンター長などを歴任。パグウォッシュ会議役員も務める。大阪府出身。74歳。

(2025年7月31日朝刊掲載)

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