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社説・コラム

社説 広がるパレスチナ承認 中東和平へ日本も決断を

 欧米の国々にも、ようやく流れが押し寄せてきた。フランスに続き、カナダ、条件付きで英国が、相次ぎパレスチナを国家承認する方針を表明した。中東の平和と安定のため欠かせない対応である。

 ナチス時代にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の負い目を持つドイツや、イスラエル寄りの米国は消極的姿勢を崩していない。それだけに、先進7カ国(G7)の3カ国が承認することは意義深い。

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃をやめさせ、飢餓状態に追い込まれた子どもたちを救うことが急がれる。承認の輪を広げることで実現につなげたい。

 パレスチナ問題に関する会議が7月末、国連本部であり、パレスチナ国家の樹立によるイスラエルとの「2国家共存」が唯一の解決策だと再確認する宣言が出された。

 その前提となるパレスチナを承認している国は、既に多数派だ。国連加盟193カ国の8割近い約150カ国に上る。とりわけガザでの戦闘開始以降、欧州の国々で承認する動きが目立つ。昨年はスペインやアイルランド、ノルウェーが承認した。

 ガザでの食料不足が今春以降深刻化する中、G7のフランス、英国、カナダにも輪は広がった。G7以外のマルタやフィンランドなども前向きな考えを示している。この流れは、もはや止められまい。

 しかしイスラエルは強硬姿勢を崩していない。「テロを行ったイスラム組織ハマスに褒美を与えるようなものだ」と猛反発している。ただ、ハマスを罰するためガザの住民を無差別に巻き込んでいる現状は明らかに行き過ぎだ。

 それが、承認の広がった背景にある。ガザ住民の命を支える物資配給は従来、国連を中心に400カ所で実施されていた。それを米国と設立した組織による4カ所に限定したため、飢餓状態が深刻化している。しかも物資の配給拠点に集まった人たちを軍が再三、銃撃して死傷者が出ている。戦闘開始以降の死者は6万人を超えた。このままでは餓死者も増えよう。

 イスラエルの横暴を止めようとしない米国のトランプ大統領ですら、ガザの状況は憂慮している。子どもたちが深刻な飢餓状態に陥っていると認め、食料センターの設置構想を表明したほどだ。

 中東の平和と安定という中長期的目標に加え、ガザでの状況の即時改善をイスラエルに迫るため、パレスチナ承認は有効な手段である。さらに輪を広げなければならない。

 日本も仏などに続く必要がある。パレスチナ承認について「総合的に検討する」と慎重だが、「2国家共存」支持を表明している以上、米国の顔色をうかがわず、人道主義の視点からも承認すべきだ。

 80年の節目を迎える「広島原爆の日」の平和記念式典に今年初めてパレスチナ自治政府の代表が出席する。イスラエルの政府代表とともに、武力ではなく対話を通じて、平和で安定した中東を実現させる一歩にしてもらいたい。その先にこそ、非核化という成果も見えてくるはずだ。

(2025年8月3日朝刊掲載)

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