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社説・コラム

天風録 『貴重な青』

 空と海。青が映える夏が真っ盛りになった。こんなに美しい青が広がっているのに、実は自然界にはもともと青い色を持つ物がほとんどない。人類はこの色を手に入れるのに、ずっと苦労してきた▲古くは油絵の具だろう。ルネサンス期の西洋では宝石の一種を砕いて調達した。同じ重さの金と交換されたというから驚く。当然、巨匠の手にしか入らない。どうしても使いたくて借金に苦しんだ芸術家もいたらしい▲日本には青の獲得で先頭を走った分野がある。青色発光ダイオード(LED)の開発では、日本人の研究者3人がノーベル物理学賞に輝いた。英語で不可能の意味がある「青いバラ」をバイオの力で生み出したのはサントリーだった▲先月の大相撲名古屋場所は青いまわしが躍動した。ウクライナ出身の21歳安青錦(あおにしき)関である。優勝争いを演じ、次は関脇の呼び声も高い。しこ名は母国の国旗にちなむ。上半分の青は空、下半分の黄は小麦を表すという▲ロシアがウクライナに侵攻して、今月下旬で3年半になる。本来であれば青く澄み渡っているはずの空には戦闘機やミサイル、ドローン兵器が飛び交う。戦争を終わらせる、幸せの青い鳥はどこにいるのか。

(2025年8月2日朝刊掲載)

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