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被爆80年託す想い 家族6人 全員奪われた 14歳 一気に独りぼっち

 朝4時過ぎ。広島市西区の鈴藤實(すずとうみのる)さん(94)は必ず、仏壇の前に座る。毎年8月6日だけは未明に家を出ると、平和記念公園(中区)の原爆慰霊碑へ。一人、静かに手を合わせる。「家族が眠っておりますから」。鈴藤さんは80年前、家族6人を原爆に奪われた。

 一家の末っ子で、ただ一人の男の子。商家の跡取り息子として、大事に育てられた。あの朝は郊外の学徒動員先にいた。自宅は爆心地から約800メートル。2日後、家族の行方を捜し当てた時は心底うれしかったが、大好きな姉は自宅の下敷きになったと聞かされた。

 残った家族も次々に倒れた。なすすべもない。目の前でみるみる衰弱していく。再会から20日も持たず、もう一人の姉が息を引き取った。その3日後に追うように父が、さらに1時間ほどして母まで逝ってしまった。近くに住んでいた祖父母も被爆死していた。本当に独りぼっちになった。

 まだ14歳。あの時だけは思ってしまった。なぜ僕を連れていってくれなかったのか。もう死んでしまいたい―。(編集委員・田中美千子)

(2025年8月5日朝刊掲載)

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