核なき世界 我々の責務 広島あす原爆の日
25年8月5日
強い日差しが照りつけ、セミの音が耳を刺激する。戦時下にもあった夏の日常は80年前、一変した。米軍が落とした1発の原爆が多くの市民の明日を奪い、生き残った者の人生もねじ曲げた。広島は6日、原爆の日を迎える。焦土と化した街は確かに復興を遂げた。ただ、核なき世界を願う被爆地の声をかき消すかのように、人類が抱える負の遺産の脅威は増している。
核兵器使用をほのめかし、ウクライナ侵攻を3年半も続けるロシア。2年前からパレスチナ自治区ガザで戦闘を繰り返すイスラエル。この5月にはインドとパキスタンが核保有国同士で軍事衝突し、6月には米軍がイランの核施設を攻撃した。
近隣の中国や北朝鮮の核戦力増強を理由に、被爆国日本でも核には核で対抗する核抑止論がぶり返す。日米両政府は有事を想定した演習で米軍が核兵器を使うシナリオを議論していた。核共有や核武装を主張する政治家も現れた。
被爆者たちが「絶対悪」「人類と共存できない」と証言を積み重ね築いてきた、核兵器を二度と使ってはならないという「核のタブー」が壊れかねない―。昨年の日本被団協のノーベル平和賞受賞は被爆者たちの努力の帰結であり、国際社会への警鐘でもある。
核兵器廃絶への行動を早めねばならない。今年3月末、被爆者健康手帳の所持者は初めて10万人を下回った。平均年齢は86歳を超えた。被爆者なき時代が迫る。中国新聞、長崎新聞、朝日新聞3社合同の「全国被爆者アンケート」では、体験や思いが次世代に「伝わっている」と思う人は半数に満たなかった。
被爆地には核兵器を否定し、感情を揺さぶる力がある。例えば、原爆資料館(中区)では被爆者の記憶を継ぐ伝承者の講話が聞ける。私自身、今年は今月2日までに34回聴講した。悲惨な体験はそれぞれ違う。共通しているのは受講者の反応だ。「話がショック過ぎて…。世界中の人が聞いてほしい」。資料館を初めて訪れたという女性は目元を何度もハンカチで押さえた。
核兵器も戦争もない世界の実現は今を生きる者の責務だ。先送りしてはいけない。私たち一人一人の行動が人類の未来につながる。(渡辺裕明)
(2025年8月5日朝刊掲載朝刊掲載)
核兵器使用をほのめかし、ウクライナ侵攻を3年半も続けるロシア。2年前からパレスチナ自治区ガザで戦闘を繰り返すイスラエル。この5月にはインドとパキスタンが核保有国同士で軍事衝突し、6月には米軍がイランの核施設を攻撃した。
近隣の中国や北朝鮮の核戦力増強を理由に、被爆国日本でも核には核で対抗する核抑止論がぶり返す。日米両政府は有事を想定した演習で米軍が核兵器を使うシナリオを議論していた。核共有や核武装を主張する政治家も現れた。
被爆者たちが「絶対悪」「人類と共存できない」と証言を積み重ね築いてきた、核兵器を二度と使ってはならないという「核のタブー」が壊れかねない―。昨年の日本被団協のノーベル平和賞受賞は被爆者たちの努力の帰結であり、国際社会への警鐘でもある。
核兵器廃絶への行動を早めねばならない。今年3月末、被爆者健康手帳の所持者は初めて10万人を下回った。平均年齢は86歳を超えた。被爆者なき時代が迫る。中国新聞、長崎新聞、朝日新聞3社合同の「全国被爆者アンケート」では、体験や思いが次世代に「伝わっている」と思う人は半数に満たなかった。
被爆地には核兵器を否定し、感情を揺さぶる力がある。例えば、原爆資料館(中区)では被爆者の記憶を継ぐ伝承者の講話が聞ける。私自身、今年は今月2日までに34回聴講した。悲惨な体験はそれぞれ違う。共通しているのは受講者の反応だ。「話がショック過ぎて…。世界中の人が聞いてほしい」。資料館を初めて訪れたという女性は目元を何度もハンカチで押さえた。
核兵器も戦争もない世界の実現は今を生きる者の責務だ。先送りしてはいけない。私たち一人一人の行動が人類の未来につながる。(渡辺裕明)
(2025年8月5日朝刊掲載朝刊掲載)