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社説・コラム

天風録 『戦争用語の響き』

 米大リーグでは春先、魔法のつえの話題で持ちきりだった。手にした打者がアーチを量産。英語名は「トルピード」。程なくして、日本にも伝わってきた。おどろおどろしい和訳とともに▲「魚雷バット」。先端が細く、球を捉える中央部分が太い形状にちなむ。大リーガーに倣って、カープをはじめ日本の選手たちも握った。使いこなせなかったのか、今は話題に上らない。これでよかったのかも。戦争用語の響きは球界になじまない▲被爆・戦後80年。いつにも増して平和について敏感でいたい。そんなムードを今の政治家たちがそいでいないか▲先の参院選。「日本人ファースト」を掲げる政党の候補者が抗議に集まった人たちを「非国民」となじった。戦時下を思い起こさせる言葉の暴力だ。与党議員も5月、沖縄戦の慰霊碑、ひめゆりの塔の展示説明を「歴史の書き換え」と中傷した。時代錯誤の暴言は断じて許せない▲話題のバットを写真で見た。その形状を例えるなら、ボウリングのピン。恐ろしい魚雷よりも、「ボウリングバット」と言い換えた方がよほど身近で親しみやすくはないか。平和な世だからこそ楽しめるスポーツ。その思いを新たにしている。

(2025年8月5日朝刊掲載)

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