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連載・特集

プロスポーツ王国 新時代 第2部 つなぐ <1> ピースナイター

平和への思い 次世代へ

 「広島にとって、日本にとって、日本人にとって大切な日。(略)広島から遠く離れた場所からですが、原爆でお亡くなりになられた方たちのご冥福を心よりお祈り申し上げます」

 米大リーグ、ヤンキースとマイナー契約を結び、メジャー復帰を目指す前田健太は昨年8月6日、自身のインスタグラムにつづった。2015年オフ、広島東洋カープから海を渡った右腕は毎年この日にSNS(交流サイト)を更新。メッセージは反応コメントであふれ「HIROSHIMA」の思いは世界を巡る。

 焼け野原になった広島に生まれたプロ野球チームの歴史は復興の歩みそのもの。そのカープは毎夏、マツダスタジアムの公式戦で平和と核兵器廃絶を球場から発信する。被爆者への慰霊、平和への思いを次代へとつなげるための取り組みには球団の深い思いが込められる。その意味を気付かせてくれたのは08年、山形県出身で当時カープの4番栗原健太(現ロッテコーチ)のブログだった。

 「広島の人は小さい時から当たり前のように平和学習をし平和を考えているそうです。僕なんか8月6日さえも知りませんでした。(略)8月6日をいい機会に平和を探してみたいと思います。戦争の爪痕を残した広島から広島市民の手で生まれた広島東洋カープ。その選手であることに誇りをもっています」

 栗原は、妻聖良さんが広島市中区出身で被爆3世。ブログの反響は大きかった。松田元オーナーは「よそで野球ばかりやっとった若い子が、広島のことを知らんでも無理もないと気付かされた」という。旧市民球場最終年の08年、折りづるナイターとして始まった企画は翌年、主催に球団が加わり、マツダスタジアムで「ピースナイター」として始動、継承される。

 被爆80年の今年は13日の阪神戦。新井貴浩監督は「広島の先人の方々がどれだけ苦労して今の平和があるのかを考え直す機会にしたい」と強調。背番号86の特別ユニホームに全員が身を包む。

 スタジアムに集う人々と平和への思いを発信する試みは競技を超え、広がる。J1サンフレッチェ広島は18年から8月6日前後のホーム戦で「ピースマッチ」を開催。久保雅義社長は「広島に根差すクラブとして、平和という価値を次世代に伝えていく責任がある」と、今年は10日の清水戦で行う。

 15年を最後にカープを退団した栗原はこうつづっていた。「『伝えていくこと』は聞く人がそれが何かを知ること。広島の人たちはその先に何があるかを知っています」。他球団に身を置いたいまそれを実感する。「いろんな場所で暮らすけど、8月6日の話題が出ることは全くない。だから広島にとって特別な日なんだと離れてから改めて思う」。毎夏、欠かさない黙とうを今年もささげる。(プロスポーツ王国新時代取材班)

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 広島にある野球、サッカー、バスケットボールのプロ3球団は競技以外でも地域と深く関わり合う。第2部では「つなぐ」をテーマに平和への取り組み、地元企業との絆、新本拠地を生み出す市民の熱意などを描く。

(2025年8月5日朝刊掲載)

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