[被爆80年 リレーエッセー] 国連軍縮研究所(UNIDIR)上級研究員・ニュージーランド国際人道法委員会議長 ティム・コーリー 「広島の精神」に尊厳の勝利
25年5月22日
国連訓練調査研究所(ユニタール)の核軍縮・不拡散研修講師として過去、広島を10回訪れ、多くの被爆者の証言に胸を打たれた。
被爆者が背負う壮絶な体験による苦しみと悲しみ。それ以上に強い印象だったのは自らが犠牲者と捉えられることを拒み、この悲劇を二度とどの地でも繰り返してはならない、と未来への訴えに焦点を向ける姿勢である。研修生は世界平和を希求する「広島の精神」の本質に非難の応酬を超えた尊厳の勝利があることを知るのだ。
今日の核兵器は80年前よりもさらに多くの命と環境を破壊する能力を有し、使用は地球上の生命への脅威にほかならない。そのリスクこそ核兵器の保有国が決して使わない、攻撃の抑止で平和を守るのだと主張する理由である。だが核抑止論は精密な科学に基づいておらず、未来の安全保障とはなりえない。たった一人の命令で核戦争が起こる可能性があり、核抑止に頼ることは恐怖の均衡に依存することを意味するからだ。
母国ニュージーランドは地理的に孤立し、核武装をした隣国に脅かされることはない。それでも広島と長崎への原爆投下、さらに米、仏、英の核実験など、核兵器の現代史が刻まれた太平洋地域に位置する。日本と同様、米国の核の傘下にある時代も経験したが、今では核兵器の領海・領空への進入が禁止され、南太平洋非核地帯を設置する。これこそ、草の根運動を機にした市民活動が政府を動かし、国家のアイデンティティーを変容させた結果なのである。
今年の国連ユニタール研修・ユースセッションでNPO法人ANT―Hiroshima(広島市中区)の渡部朋子理事長が「草の根の活動は変化を生み出せる」と発言された。同じ志の団体同士が連帯すれば当初は小さくても大きな力になるという証左であろう。
2024年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことは、今日も世界の核軍縮を主導する役割が市民の草の根の努力に委ねられている現実を浮き彫りにした。各国のリーダーは今こそ「被爆者の精神」に学び、核兵器のない世界に向けた新たな軍縮と安全保障の取り組みを始めるべきである。
(2025年5月22日朝刊セレクト掲載)
被爆者が背負う壮絶な体験による苦しみと悲しみ。それ以上に強い印象だったのは自らが犠牲者と捉えられることを拒み、この悲劇を二度とどの地でも繰り返してはならない、と未来への訴えに焦点を向ける姿勢である。研修生は世界平和を希求する「広島の精神」の本質に非難の応酬を超えた尊厳の勝利があることを知るのだ。
今日の核兵器は80年前よりもさらに多くの命と環境を破壊する能力を有し、使用は地球上の生命への脅威にほかならない。そのリスクこそ核兵器の保有国が決して使わない、攻撃の抑止で平和を守るのだと主張する理由である。だが核抑止論は精密な科学に基づいておらず、未来の安全保障とはなりえない。たった一人の命令で核戦争が起こる可能性があり、核抑止に頼ることは恐怖の均衡に依存することを意味するからだ。
母国ニュージーランドは地理的に孤立し、核武装をした隣国に脅かされることはない。それでも広島と長崎への原爆投下、さらに米、仏、英の核実験など、核兵器の現代史が刻まれた太平洋地域に位置する。日本と同様、米国の核の傘下にある時代も経験したが、今では核兵器の領海・領空への進入が禁止され、南太平洋非核地帯を設置する。これこそ、草の根運動を機にした市民活動が政府を動かし、国家のアイデンティティーを変容させた結果なのである。
今年の国連ユニタール研修・ユースセッションでNPO法人ANT―Hiroshima(広島市中区)の渡部朋子理事長が「草の根の活動は変化を生み出せる」と発言された。同じ志の団体同士が連帯すれば当初は小さくても大きな力になるという証左であろう。
2024年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことは、今日も世界の核軍縮を主導する役割が市民の草の根の努力に委ねられている現実を浮き彫りにした。各国のリーダーは今こそ「被爆者の精神」に学び、核兵器のない世界に向けた新たな軍縮と安全保障の取り組みを始めるべきである。
(2025年5月22日朝刊セレクト掲載)