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[被爆80年 リレーエッセー] JICA中国所長 村岡啓道 知らない相手だからこそ

 「自分のことを伝え、相手のことを知ることが始まり。お互い理解し合うことが一番大切だ」。30年にわたり、東南アジアや東ヨーロッパなどの国際協力の現場を回ってきた経験から力を込め、そう言いたい。

 広島市佐伯区出身で、広島で育った。釣りに打ち込み、大学では生物学を専攻した。転機が訪れたのは大学の卒業旅行でインド、ネパールへ行った時のこと。路上で物乞いをする人たちや、ごみ捨て場で売れる物を探す子ども。貧しい人のために何かできないかという思いを強く持った。

 大事にしたのは、知らない相手だからこそ、現場を回ることだ。インドでは貧しい農民の声に耳を傾け、駐在していたインドネシアでは用がなくても現場をぶらつき、つたないインドネシア語で話をした。

 2023年、地方と世界をつなぐ国内センター長として久しぶりに広島に戻ってきた。学生時代に釣りをした五日市港は様変わりしていたが、平和を希求する広島県民の心や世界中で戦争が起きている現実は変わらない。G7広島サミットが行われる年だったし、広島から平和を伝えていきたいとの思いを強くした。

 JICAの研修で世界中から来広する多くの研修員には、被爆の実相や平和の大切さを伝える広島平和記念資料館を訪れる機会を設けている。実際に見ることは大きなインパクトを与える。研修員の一人は「炎に包まれて苦しむ人びとや水を求めて川に飛び込む人々の写真を見て、涙を抑えきれなかった。人間はなぜ、同じ人間の行為によって苦しまないといけないのか」と話していた。

 それならば、広島、長崎を訪れることのできない人へは何ができるのか。広島から途上国へ出発するJICA海外協力隊員には、派遣国への出発前に平和学習の機会を設け、現地の人との生活・ボランティアとともに被爆の実相や平和の大切さを伝える活動に役立ててもらっている。

 本年は終戦・被爆80年。平和な世界の実現は容易ではない。だが、地道な努力でも何かやらなきゃ伝わらない。

(2025年3月13日朝刊セレクト掲載)

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