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プロスポーツ王国 新時代 第2部 つなぐ <2> 学び

日常の尊さ 考える空間

 「サッカーが生きる勇気の源泉になった人が広島にはたくさんいた」。6月、サンフレッチェ広島がエディオンピースウイング広島(広島市中区)で初開催した修学旅行生への平和学習。仙田信吾相談役(70)は、京都から訪れた中学生約200人に熱弁を振るった。

 クラブが制作したアニメーションを大型ビジョンで放映。サンフレの前身、東洋工業で活躍し、日本代表監督も務めた被爆者、下村幸男さん(93)を主人公にした物語で生徒の関心を誘った。

 昨年2月に誕生したサッカー専用スタジアムは、原爆ドームと原爆慰霊碑、原爆資料館の延長線に立つ。その立地に平和記念公園でガイド活動を行う広島の高校生が着目。平和とスポーツをテーマにした体験型ツアーを企画し、クラブに働きかけ、8月から本格開催にこぎ着けた。プレ開催ではアウェーサポーターも参加。ヒューマンキャンパス高3年森下結名さんは「スポーツを入り口にして平和を身近に考えてほしい」と期待する。

 学びの場として活用が広がるスタジアム。試合のない日も人を引き寄せるのが人気サッカー漫画「キャプテン翼」の巨大壁画だ。主人公の大空翼が広島で「サッカーで世界平和を訴えたい」などとスピーチする漫画の一場面にクラブが共感。原作者の高橋陽一さん(65)に制作を依頼したオリジナル壁画では、翼が「ボクはこの世界から戦争をなくしたい!」などと訴える。

 「広島は原爆の惨禍から復興し、常に世界に通じているまち。広島を背負う以上は平和を伝える責務がある」。広島ドラゴンフライズの浦伸嘉社長は力を込める。2013年に産声を上げたクラブにとっても、大事な運営理念だ。

 専用アリーナを持たない中、特長を見せるのがソフト面での取り組み。平和の象徴とされる折り鶴をテーマに18年からプロジェクトを展開。ホームゲームは全試合、開始前に両チームが折り鶴を交換し、最もフェアプレーをした選手を「おりづる賞」として表彰する。試合後、相手チームが退場する際、スタンディングオベーションで送り出す風景は独自の文化として定着。「リスペクト」の思いを伝えている。

 6日からはクラブ公式X(旧ツイッター)で、平和への願いをつなぐ「#おりづるリレー」がスタート。Bリーグの所属クラブなどが参加し、メッセージ動画をリレー投稿する。初回、ドラフラの寺嶋良は伝える。「私にとっての平和はスポーツを通じてたくさんの笑顔をつくることです」。スポーツができる日常の尊さをかみしめ活動する。(プロスポーツ王国新時代取材班)

(2025年8月6日朝刊掲載)

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