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核廃絶 市民の総意に 若い世代に行動呼びかけ 被爆80年 広島平和宣言

 米軍による原爆投下から80年の6日、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。被爆者や遺族、政府関係者たちが参列。松井一実市長は平和宣言で「決して諦めることなく、核兵器廃絶への思いを市民社会の総意にしていかなければならない」と強調。とりわけ、次代を担う若い世代に行動を呼びかけた。

 松井市長はロシアのウクライナ侵攻や中東情勢を受け、自国を守るため核兵器保有を容認する考えが為政者に強まりつつあると危機感を示した。ただ、混迷を深める世界情勢にあっても、若い世代が自分たちの将来に核兵器が非人道的な結末をもたらし得ると自覚し、日常生活でできる行動によって「必ずや核抑止力に依存する為政者の政策転換を促す」と訴えた。

 また、日本被団協の代表委員や広島県被団協理事長を務めた坪井直(すなお)さん(2021年に96歳で死去)が核兵器のない平和な世界へ唱え続けた言葉「ネバーギブアップ」を引用。被爆者の体験に基づく平和への思いを継ぐ意義を伝えた。

 世界の為政者には対話を通じた信頼関係に基づく安全保障の議論開始も提唱。日本政府には国際社会の分断解消を主導し、日本被団協のノーベル平和賞受賞などを踏まえ、来年11月に開幕する核兵器禁止条約の第1回再検討会議へオブザーバー参加するよう求めた。

 式典は午前8時に始まり、この1年に死亡が確認された広島の被爆者4940人を書き足した原爆死没者名簿を松井市長と遺族代表が原爆慰霊碑の石室に納めた。名簿は2冊増え、130冊計34万9246人分になった。

 原爆投下時刻の8時15分に「平和の鐘」の音に合わせ、全員で黙とう。「平和への誓い」を発表するこども代表は、皆実小6年関口千恵璃さん(12)=南区=と祇園小6年佐々木駿さん(12)=安佐南区=が担った。

 市は今年の式典で、海外の政府代表を「招待」する従来の形式から、開催を案内する「通知」に変更。パレスチナ自治政府や台湾が初出席の意向を示していた。

 厚生労働省によると、被爆者健康手帳を持つ被爆者は3月末時点で9万9130人。初めて10万人を下回り、平均年齢は過去最高の86・13歳となった。(渡辺裕明)

平和宣言 骨子

■被爆者の体験に基づく平和への思いを伝えていくことがますます大切になっている
■世界で軍備増強の動きが加速し、自国を守るために核兵器の保有もやむを得ないという考え方が為政者の中で強まりつつある
■核兵器廃絶への思いを市民社会の総意にする必要がある。若い世代に核兵器が自分たちの将来に非人道的な結末をもたらし得る課題と自覚してもらい、市民社会の総意を形成するための活動の先導を期待する
■平和文化が国境を越えて広がっていけば、核抑止力に依存する為政者の政策転換を促すことになる
■安全保障政策が国家間の争いを生み出している。世界の為政者は広島を訪れ被爆の実相を確かめ、対話を通じた信頼関係に基づく安全保障体制の構築議論を開始すべきだ
■日本政府には核兵器禁止条約第1回再検討会議へのオブザーバー参加や在外被爆者を含めた被爆者支援の充実を求める

(2025年8月6日別刷掲載)

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