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社説・コラム

天風録 『80年の被爆地』

 被爆80年のきのう、平和記念式典は海外の政府代表者の出席が過去最多になった。会場周辺を歩くと、外国人の姿が目立つ。多くの慰霊碑には、真新しい花や折り鶴がささげられていた▲海外でも原爆への関心や理解が広がっているのか。「広島と長崎への原爆投下は必要なかった」。そう考える若者が当の米国でも増えている。6月の世論調査によると、30歳未満では投下に否定的な回答は44%。「正当化できる」の27%を上回った▲30年前と比べ、隔世の感がある。米国立スミソニアン航空宇宙博物館が戦後半世紀に計画した広島の惨状も伝える「原爆展」である。退役軍人や政治家らが強硬に反対して事実上の中止に追い込まれ、日米の原爆観の違いが浮き彫りになった▲現地の大学で教壇に立つ知人の話を聞いて、納得できた。原爆投下の是非について毎年、学生に日米双方の立場を踏まえた資料を読んでもらった上で、ディベート授業をしているそうだ▲国内はどうだろう。首相はきのう否定したが、非核三原則の見直しや核共有を真顔で口にする政治家が珍しくなくなってきた。「力による平和」がまかり通るようでは、原爆の犠牲者たちは安らかに眠れない。

(2025年8月7日朝刊掲載)

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