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四国五郎さんの朗読詩 絵本に 「ひろしまの子」長谷川義史さん描く 「あやまちはくり返さない」バトンつなぐ

 被爆地広島で反戦反核の思いを筆に託し続けた画家・詩人の四国五郎さん(2014年に89歳で死去)が、45年前に発表した朗読詩「ひろしまの子」がこの夏、絵本としてよみがえった。四国さんがのこした言葉を、魅力あふれる絵で表現したのは、「ぼくがラーメンたべてるとき」などの作品で知られる人気絵本作家の長谷川義史さん(64)=大阪市=だ。「時を超えて受け取ったバトンを、今を生きる人たちへ新たにつなぎたい」と世に送り出した。(論説委員・森田裕美)

 ≪あなたのとなりを見てください ひろしまの子がいませんか≫

 そんな問いかけから始まる「ひろしまの子」は1980年、四国さんが朗読詩として創作した。同年8月に広島で開かれた原水爆禁止世界大会で、聴衆を前に自ら朗読した作品だという。

 45年8月6日の朝までそこにいた子どもたちの姿をうたい、「あなたをじっと見つめています」と続ける。

 米軍が投下した原爆は、広島市中心部にいた幼子や動員学徒たちの命を突然断ち切った。詩は無残に殺された子どもたちを想起するよう促し、核時代に生きる私たちが犠牲者の声なき声を受け止め、行動するよう訴えかける。

 ≪あなたの目で うなずき返してやってください/ひろしまの子に わかるように/けっして再び あやまちはくり返さないと!/けっして 許さないと!≫

 世界で戦火が続き、核の危険が絶えない現在にも響く作品だが、詩集などには収められておらず、知る人ぞ知る作品だった。

 長谷川さんがこの詩と出合ったのは2年前の8月。四国さんの人生を一人芝居にして上演している俳優の友人から紹介された。「絵本にしたい。しなければと思った」と振り返る。すぐに四国さんの長男光さん(69)=大阪府吹田市=に相談し快諾は得たものの、しばらくは悩んだという。「広島に縁もなく、何も知らんもんが踏み入って描いてええんやろか」と。

 それでも光さんに背中を押され、意を決して広島へ。爆心地や周辺を歩き、原爆資料館(中区)で被爆した子どもの「生きた証し」である遺品やその死を悲嘆する遺族の言葉に接した。国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(同)にも足を運び、子どもの遺影に向き合い、スケッチした。一人一人の名前や顔立ち、服装といったディテールに触れ、「この子たちを描かなければという気持ちになった」と話す。

 直前まで元気に過ごしていた姿を思いながら、筆を動かした。一瞬にして亡くなった子どもも、苦痛の末、数日後数カ月後に亡くなった子どももいる。「どんなにつらかったろうと思って」

 BL出版(神戸市)から刊行された絵本には、古い写真から出てきたような少年少女が、長谷川さんならではの優しくも大胆な筆触で描かれている。その子たちは皆、じっとこちらを見つめる。

 詩には悲惨な死の描写や厳しい言葉もあるが、絵では残虐な場面は描いていない。穏やかでまっすぐな子どものまなざしがそれを奪った原爆の非人道性を静かに伝える。

 制作に協力した光さんは「長谷川さんによって父の詩に光が当てられ、新しい表現として世に紹介されることがうれしい」と喜ぶ。長谷川さんも「四国さんの問いかけが、今に届けられたら」と思いを込める。A4変型判、32ページ、1760円。

(2025年8月8日朝刊掲載)

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