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[被爆80年] 「伝承者」の思い紹介 東大大学院生の森吉さんがアーカイブ 次代への継承の一助に

 やがてくる「被爆者なき時代」に記憶をどう継承していくか―。差し迫る課題を前に、広島県出身の父を持つ東京大大学院生の森吉蓉子さん(25)=千葉市=が被爆体験の「伝承者」を紹介するデジタルアーカイブを作り、7日公開した。被爆者から直接言葉を受け取った人たちの思いを残し、さらに次代の継承活動に役立ててもらう。(山下美波)

 「広島・長崎 語り手のアーカイブ」。二つのコンテンツからなり、先行した「ストーリーテリング版」は文章中心。伝承者のより深い思いに触れてもらおうと、その人生や講話の工夫など、口調も含めて聞き取った内容をほぼすべて載せている。当初は3人分。テクノロジーを活用した平和活動に取り組む教授の指導を受け、随時増やす。

 もう一つは写真や動画中心の「デジタルアース版」で今後、公開予定。伝承者になった理由などを短い文章で説明し、出身地や勤務地などゆかりの場所を地図上に示すことで簡潔な情報で関心を高めてもらう。

 森吉さんはデジタルコンテンツを活用した戦災記憶の継承を研究している。その中で被爆体験の伝承者に関心を持ち、2023年から広島と長崎の計52人の聞き取りを進めてきた。

 修士論文の執筆中に出会った長崎の伝承者からは「被爆体験そのものだけでなく、感情も分からないと伝承講話はできない」と言われたという。被爆者がいなくなり、やがて伝承者から記憶を受け継ぐ時代を見据え「被爆者だけでなく、伝承者にも一人一人の物語がある。それを知らずして継承はできない」とアーカイブ制作を思い立った。

 協力した伝承者の中川俊昭さん(74)=広島市南区=は「伝承講話は被爆体験のまた聞きといわれることもあるが、そうではない。戦後生まれで被爆者の子世代である私たちがどう感じ、伝えているかを若い人に知ってもらいたい」。森吉さんは「被爆者なき時代にどう伝えるか、先人の語り手の思いに触れて考えてほしい」と願う。

(2025年8月8日朝刊掲載)

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