ヒロシマ 向き合うアート 広島市現代美術館 被爆80年の特別展 60作品 戦争体験を未来へ
25年8月9日
特別展「被爆80周年記念 記憶と物―モニュメント・ミュージアム・アーカイブ」が、広島市現代美術館(南区)で開かれている。銅像や慰霊碑などヒロシマのモニュメントを巡る歴史を紹介し、現代アートの第一線で活躍する5組6人の作品をコレクションと共に展示。時代とアートの関係性に、思いを巡らせる場となっている。(木原由維)
全4章で60作品を展示。会場に入ると、高さ約9・3メートルの巨大な垂れ幕が天井からつり下がる。同館がある比治山に1935年に建立された「加藤友三郎元帥銅像」を実物大に複製した写真だ。広島生まれの軍人で内閣総理大臣も務めた加藤の像は、戦時の金属供出で撤去され、今は台座だけが残る。垂れ幕は裏面に「空の台座」をプリント。時代の変遷と「像の不在」を伝える。
その加藤像を手がけたのは呉市出身の彫刻家、上田直次。郷土の偉人や軍人の像を手がけた一方、ヤギを平和の象徴と見立て、好んで題材とした。会場で展示されている木彫の「愛に生きる」(31年、呉市立美術館蔵)は、ヤギの親子が寄り添う姿。軍国主義に沿いながら平和を愛する、作家の複雑な内面が伝わってくる。
彫刻家イサム・ノグチが設計したものの不採用になった平和記念公園の「広島の原爆死没者慰霊碑」(模型、原案52年/制作91年)は同館のコレクション。不採用は、ノグチの米国籍が理由ともされる。
こうした上田やノグチの記憶をテーマにした映像「~のためのプラクティス」(2022~25年)シリーズは、広島市立大と同大学院で学んだアーティスト黒田大スケ(京都市)の作品。近代化や戦争との関わりで抱えたゆがみや矛盾に着目し、彼らに成り代わって独白するパフォーマンスを映像化した。
ヒロシマをテーマとするコレクションからは、丸木位里、俊夫妻の「原爆の図 第1部『幽霊』」(再制作版)、殿敷侃(ただし)「山口―日本海―二位ノ浜 お好み焼き」などを展示。「原爆賛美では」との批判を受けて同館の玄関から撤去された、英国の彫刻家ヘンリー・ムーアの「アトム・ピース」(1964~65年)も並べ、アートと社会に向き合ってきた同館の歩みを振り返る。
松岡剛主幹学芸員は「新旧の作品が関係を結び、新たな文脈を生み出すことを狙った。戦争体験を未来へつなぐため、当事者の記憶や記録を私たちがどう内面化し、再生・再編するか。会場で示される多様な表現がヒントになればうれしい」と話す。
9月15日まで。一般1600円、中学生以下無料。祝日を除く月曜と8月12日は休館。(敬称略)
(2025年8月9日朝刊掲載)
全4章で60作品を展示。会場に入ると、高さ約9・3メートルの巨大な垂れ幕が天井からつり下がる。同館がある比治山に1935年に建立された「加藤友三郎元帥銅像」を実物大に複製した写真だ。広島生まれの軍人で内閣総理大臣も務めた加藤の像は、戦時の金属供出で撤去され、今は台座だけが残る。垂れ幕は裏面に「空の台座」をプリント。時代の変遷と「像の不在」を伝える。
その加藤像を手がけたのは呉市出身の彫刻家、上田直次。郷土の偉人や軍人の像を手がけた一方、ヤギを平和の象徴と見立て、好んで題材とした。会場で展示されている木彫の「愛に生きる」(31年、呉市立美術館蔵)は、ヤギの親子が寄り添う姿。軍国主義に沿いながら平和を愛する、作家の複雑な内面が伝わってくる。
彫刻家イサム・ノグチが設計したものの不採用になった平和記念公園の「広島の原爆死没者慰霊碑」(模型、原案52年/制作91年)は同館のコレクション。不採用は、ノグチの米国籍が理由ともされる。
こうした上田やノグチの記憶をテーマにした映像「~のためのプラクティス」(2022~25年)シリーズは、広島市立大と同大学院で学んだアーティスト黒田大スケ(京都市)の作品。近代化や戦争との関わりで抱えたゆがみや矛盾に着目し、彼らに成り代わって独白するパフォーマンスを映像化した。
ヒロシマをテーマとするコレクションからは、丸木位里、俊夫妻の「原爆の図 第1部『幽霊』」(再制作版)、殿敷侃(ただし)「山口―日本海―二位ノ浜 お好み焼き」などを展示。「原爆賛美では」との批判を受けて同館の玄関から撤去された、英国の彫刻家ヘンリー・ムーアの「アトム・ピース」(1964~65年)も並べ、アートと社会に向き合ってきた同館の歩みを振り返る。
松岡剛主幹学芸員は「新旧の作品が関係を結び、新たな文脈を生み出すことを狙った。戦争体験を未来へつなぐため、当事者の記憶や記録を私たちがどう内面化し、再生・再編するか。会場で示される多様な表現がヒントになればうれしい」と話す。
9月15日まで。一般1600円、中学生以下無料。祝日を除く月曜と8月12日は休館。(敬称略)
(2025年8月9日朝刊掲載)