『潮流』 コンクリ船と漫画
25年8月16日
■特別論説委員 岩崎誠
デビュー作から40年来のファンだ。動物ギャグ「ナマケモノが見てた」に映画化された人情物語「星守る犬」。漫画家の村上たかしさんがしばらく前に東広島市に居を構えたのは誇らしかった。
その思いを、足元の歴史に目を向けた新作で強くした。ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載中の漫画「コンクリートの船」。呉市安浦町の漁港・三津口で戦後、2隻連ねて防波堤に転用された旧海軍のコンクリート製の輸送船・武智丸が大戦末期、どのように造られたかを描く。
コンクリートで船を造れ。鉄が乏しい海軍の苦肉の策を、戦争で仕事が減った大阪の土木会社社長が請け負う。造船所を立ち上げて試行錯誤が続き…。村上さんのリサーチに基づく作品は建造を巡る人間模様を通じ、時代の空気を映す。ギャグと人情を交えつつ。
この防波堤は、呉と竹原を結ぶ海沿いの国道から見える。「水の守り神武智丸」の看板もある。数え切れないほど前を通りながら、誕生の逸話を深く取材しなかったことを反省したくもなる。
久々に足を運ぶと、ご同輩とおぼしきファンの姿があった。戦後80年、地元からすれば「あって当たり前」の戦争遺産の実像を掘り下げてもらったことに感謝したい。
漫画の力を思う。あの「この世界の片隅に」のこうの史代さん。名古屋空襲を描く「あとかたの街」の作者、おざわゆきさん。戦争の時代を直接知らない漫画家が丹念な取材を重ね、共感を呼んだ作品はほかにもある。
共通するのは肩の力を少し抜き、戦争と言われてもぴんとこない世代と同じ目線で物語を紡ぐ継承の姿勢だろう。コンクリ船の物語も映画やドラマにならないものか。
(2025年8月16日朝刊掲載)
デビュー作から40年来のファンだ。動物ギャグ「ナマケモノが見てた」に映画化された人情物語「星守る犬」。漫画家の村上たかしさんがしばらく前に東広島市に居を構えたのは誇らしかった。
その思いを、足元の歴史に目を向けた新作で強くした。ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載中の漫画「コンクリートの船」。呉市安浦町の漁港・三津口で戦後、2隻連ねて防波堤に転用された旧海軍のコンクリート製の輸送船・武智丸が大戦末期、どのように造られたかを描く。
コンクリートで船を造れ。鉄が乏しい海軍の苦肉の策を、戦争で仕事が減った大阪の土木会社社長が請け負う。造船所を立ち上げて試行錯誤が続き…。村上さんのリサーチに基づく作品は建造を巡る人間模様を通じ、時代の空気を映す。ギャグと人情を交えつつ。
この防波堤は、呉と竹原を結ぶ海沿いの国道から見える。「水の守り神武智丸」の看板もある。数え切れないほど前を通りながら、誕生の逸話を深く取材しなかったことを反省したくもなる。
久々に足を運ぶと、ご同輩とおぼしきファンの姿があった。戦後80年、地元からすれば「あって当たり前」の戦争遺産の実像を掘り下げてもらったことに感謝したい。
漫画の力を思う。あの「この世界の片隅に」のこうの史代さん。名古屋空襲を描く「あとかたの街」の作者、おざわゆきさん。戦争の時代を直接知らない漫画家が丹念な取材を重ね、共感を呼んだ作品はほかにもある。
共通するのは肩の力を少し抜き、戦争と言われてもぴんとこない世代と同じ目線で物語を紡ぐ継承の姿勢だろう。コンクリ船の物語も映画やドラマにならないものか。
(2025年8月16日朝刊掲載)