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[戦後80年 遺構を巡る 芸南賀茂] 大麗女島(呉市若葉町) 特殊潜航艇 坑道で建造

 呉市の呉中央桟橋と江田島市の小用港を結ぶ航路。フェリー約20分間の短い船旅の途中、呉側の沖合に無人島が現れた。標高約30メートル、面積約2ヘクタールの大麗女(おおうるめ)島だ。

 防衛省防衛研究所の史料などによると、戦前は旧海軍の燃料置き場で、島を多くの坑道が貫く。東側の茂みには、現在も坑道の入り口が並んで見える。れんが造りの小屋も残る。干潮時には桟橋のような細長い石積みが姿を見せ、約300メートル先の対岸近くまで延びる。

 太平洋戦争末期には、坑道の一部を拡張した地下工場で、特殊潜航艇「蛟龍(こうりゅう)」を建造した。1日1隻を目指したものの、数隻しか完成しなかったとされる。特殊潜航艇は1932年から旧呉海軍工廠(こうしょう)で試作。40年に兵器に採用後、量産化し、蛟龍まで改良を繰り返した。出撃や訓練で多くの若い命が失われた。

 島は現在、海上自衛隊の弾薬庫となり、柵が巡らされている。今年3月末、新たな火薬庫を整備する案が浮上した。防衛省は呉市の日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区跡地で複合防衛拠点の整備案を示しているが、敷地内の火薬庫の面積を必要最小限に抑えるため、大麗女島の活用を挙げている。

 火薬庫の新設には「有事の攻撃対象になりかねない」として反対の声も上がる。ひっそりと戦争の記憶を残してきた島は、これからどう変わるのだろうか。(高木潤)

(2025年8月16日朝刊掲載)

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