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核廃絶の訴え 今こそ 広島 あす「原爆の日」

■記者 長田浩昌

 広島は6日、原爆の日を迎える。この1年で国際社会は核兵器廃絶へとかじを切った。今年就任したオバマ米大統領が、「核兵器のない世界」を目指す意志を表明し、流れを確かなものにした。これからが、具体的な核軍縮に向けた正念場だ。変化の兆しの中、64年前に壊滅した街はあす、鎮魂と平和への祈りに包まれる。そして、揺るぎない訴えを国内外へと届ける。「核兵器はなくせる」―。

 オバマ大統領が核兵器をめぐる世界の潮流を変えた。核超大国の新リーダーは就任から2カ月半の4月5日、プラハでの演説で「核兵器のない世界」を目指す意志を表明し、称賛を集めた。

 人類史上で唯一、人々の頭上で原爆をさく裂させた米国の政策転換は、各国の軍縮努力の呼び水となる。被爆地広島も大統領の訪問を希望し、11月とされる初来日での実現に期待が強まる。広島市は今夏、核兵器廃絶を願うマジョリティー(多数派)という言葉を合わせた「オバマジョリティー・キャンペーン」で世論を高める取り組みを始めた。

 追い風ばかりではない。北朝鮮は5月、核実験を強行した。パキスタンも隣国インドとの対抗上、核開発施設の拡大を認める。

 核軍縮か否かの岐路となる核拡散防止条約(NPT)再検討会議が来年5月に開かれる。新たな核拡散への懸念がぬぐえない中、核軍縮の具体論を描くことができるのか。NPT体制自体の存在意義が問われる。

 核兵器廃絶を訴えながら、米国の「核の傘」の下にいる被爆国の現実もまた、直視せざるを得ない。今、核持ち込みに関する密約の存在がクローズアップされ、国是である非核三原則の根幹が揺らいでいる。政府が否定する中、政権を懸けた衆院選の結果が真相究明や非核三原則の将来を左右する可能性もある。

 全国の被爆者健康手帳の所持者は3月末現在、前年同期より8123人減の23万5569人。平均年齢は0・78歳上がり75・92歳になった。老いた被爆者が勝利を積み重ねた原爆症認定集団訴訟は、全面解決の鍵となる政府の方針がまだ決まっていない。

 大切な人を奪われ、自身も心身に深い傷を負う被爆者。ずっと、憤りや悲しみを語り続けている人がいる。64年の時を経て、ようやく語り始めた人がいる。あすは、受け継ぐ重みを伝える日となる。

(2009年8月5日朝刊掲載)

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