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社説・コラム

天風録 『戦中を生きた人たち』

 80年前のきょう、玉音放送で国民は戦争の終結を知らされた。山口県周防大島出身の民俗学者、宮本常一氏は師から聞かされ、敗戦は覚悟の上だった。「この責任は国民、特に政治家にある」。淡々と日記で責任にも触れている▲むろん、先を読んでいた人たちばかりではない。「信じられない。日本が、恥辱に満ちた敗戦国となったとは!」。当時は医学生だった作家の山田風太郎氏は悔しさを日記に刻んでいる▲「日本は今後永久に平和的国家としてのみ存在意義を見いださねばならぬ」。敗戦の衝撃から約2カ月過ぎて世の中が落ち着いた頃、物理学者の湯川秀樹氏は週刊誌でそう主張している。戦争はもう嫌だ―。そんな国民の願いに応えた不戦の誓いだ▲きのうの本紙に載った、戦後80年の世論調査に意を強くする。戦後の歩みの中で良かったことは「他国と戦争をしなかった」が最も多く、経済成長や治安の良さを上回った。不戦の誓いの根っこには日本が引き起こした先の戦争に対する反省がある▲戦時を身をもって知る人が減り、リアルな体験が身勝手な歴史解釈に上塗りされてはいないか。戦中を生きた人たちの声に耳を傾けたい。節目の日にこそ改めて。

(2025年8月15日朝刊掲載)

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