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[戦後80年] 祖父通し描く呉の悲劇 市出身の絵本作家・長田さんが「赤い日」刊行

空襲・原爆… 「戦争 過去じゃない」

 呉市出身の人気絵本作家の長田真作さん(35)=東京=が、呉空襲と原爆を見た祖父をモデルにした絵本「赤い日」(汐文社)を刊行した。「社会は混迷を増し、戦争は過去のことと片づけられない」。危機感を募らせ、誰もがいや応なしに巻き込まれた80年前の惨劇をページに刻む。(栾暁雨)

 大田市の小学校教員だった祖父幸之助さん(2002年に78歳で死去)は太平洋戦争末期、呉海軍工廠(こうしょう)に動員された。絵本には、多くの若者たちが「お国のために」と耐えながら、兵器や軍艦を造る姿を描いた。

 96ページの長編。1945年7月の呉空襲で隣にいた親友を亡くし、救援隊として向かった広島で入市被爆した祖父の若い頃の体験をたどる。時代のほの暗さを表現した墨絵の黒と、二つの街を焼き尽くした炎や血の赤の対比が印象的だ。

 幸之助さんは戦後、教職に復帰した。だが、生き延びた罪悪感からか、12歳まで一緒に暮らした長田さんにも、工廠での仕事内容や広島で何を見たかはほとんどしゃべらなかったという。

 長田さんは高校卒業後、東京で創作活動を始めた。40冊近くの絵本を手がける中で、呉の出身者の責務として祖父の記憶の断片を残したいと思うようになった。「聞く側の覚悟が求められるのが戦争体験。でも絵本なら読者の想像力に働きかけられる」と信じる。

 「戦争はうんざり」。言葉少なに語った幸之助さんの思いをかみしめ、終戦の日を迎える。

(2025年8月15日朝刊掲載)

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