米被曝補償法が再び発効 一時金支払い 対象も拡大
25年8月11日
2024年6月に期限切れで失効していた米国の放射線被曝(ひばく)補償法(RECA)が再び発効し、補償対象も拡大される見通しとなった。核実験従事者や核実験場周辺で被曝した住民たちを対象に一時金を支払う法制度で、米議会が7月初旬に可決したトランプ政権下の「減税法」に盛り込まれた。28年までの期限付きながら、被害者の訴えが実った形だ。
RECAは、対象地域で核実験、ウラン採掘や精錬、運搬に一定期間従事した人や、核実験場の風下地区に一定期間住んでいた人を対象とする。白血病やがんなど特定の病気になれば5万~10万ドル(約750万~1500万円)の一時金を申請できる。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、1990年にRECAが制定されて以降、5万5千人以上に計26億ドル(約3900億円)超が支給されているという。
期限切れになった24年以降、もともと救済対象外だった地域の住民たちが中心になり、延長や対象地域の拡大を連邦議会に求めていた。地元選出議員も超党派で取り組んだ。
西部ニューメキシコ州の「トゥラロサ盆地風下住民共同体」(TBDC)は、広島、長崎への原爆投下に先立って1945年7月16日に世界初の原爆実験が行われたアラモゴードの「トリニティ・サイト」周辺住民でつくる市民団体。核実験で被曝したと被害を訴えてきた。今回、対象地域に加わった。
また、第2次世界大戦中に原爆を開発したマンハッタン計画に由来する放射性廃棄物が投棄されたミズーリ州のセントルイス近郊なども、新たに対象となる。ウラン鉱での労働も、従事した時期について条件が一部緩和された。
TBDCの共同設立者のリサ・コルドバさんは「風下住民は事前に退避するよう勧告されず、核実験による健康影響も知らされないまま人生を犠牲にしてきた」と強調する。RECAの延長・拡大を評価しながらも、新たな制度は「詳細が明らかになっていないこともあり、まだ安心はできない」。連邦議会への働きかけを続けるという。
コルドバさんらは核実験から80年になった7月16日、トリニティ・サイトにつながる道路の入り口付近で、風下住民ががんなどに苦しんできたことを刻んだ標識を除幕した。続く追悼集会で、犠牲者の名前を記したろうそくをともし一人一人の名前を読み上げた。
米国は45年7月から部分的核実験禁止条約を締結する前年の62年まで、大気圏または水中での核実験を215回実施。うち100回はネバダ州で行った。ニューメキシコ、アラスカ、コロラド、ミシシッピ州など米本土10カ所でも行われ、残りは中部太平洋のマーシャル諸島で実施された。(客員編集委員・籔井和夫)
(2025年8月11日朝刊掲載)
RECAは、対象地域で核実験、ウラン採掘や精錬、運搬に一定期間従事した人や、核実験場の風下地区に一定期間住んでいた人を対象とする。白血病やがんなど特定の病気になれば5万~10万ドル(約750万~1500万円)の一時金を申請できる。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、1990年にRECAが制定されて以降、5万5千人以上に計26億ドル(約3900億円)超が支給されているという。
期限切れになった24年以降、もともと救済対象外だった地域の住民たちが中心になり、延長や対象地域の拡大を連邦議会に求めていた。地元選出議員も超党派で取り組んだ。
西部ニューメキシコ州の「トゥラロサ盆地風下住民共同体」(TBDC)は、広島、長崎への原爆投下に先立って1945年7月16日に世界初の原爆実験が行われたアラモゴードの「トリニティ・サイト」周辺住民でつくる市民団体。核実験で被曝したと被害を訴えてきた。今回、対象地域に加わった。
また、第2次世界大戦中に原爆を開発したマンハッタン計画に由来する放射性廃棄物が投棄されたミズーリ州のセントルイス近郊なども、新たに対象となる。ウラン鉱での労働も、従事した時期について条件が一部緩和された。
TBDCの共同設立者のリサ・コルドバさんは「風下住民は事前に退避するよう勧告されず、核実験による健康影響も知らされないまま人生を犠牲にしてきた」と強調する。RECAの延長・拡大を評価しながらも、新たな制度は「詳細が明らかになっていないこともあり、まだ安心はできない」。連邦議会への働きかけを続けるという。
コルドバさんらは核実験から80年になった7月16日、トリニティ・サイトにつながる道路の入り口付近で、風下住民ががんなどに苦しんできたことを刻んだ標識を除幕した。続く追悼集会で、犠牲者の名前を記したろうそくをともし一人一人の名前を読み上げた。
米国は45年7月から部分的核実験禁止条約を締結する前年の62年まで、大気圏または水中での核実験を215回実施。うち100回はネバダ州で行った。ニューメキシコ、アラスカ、コロラド、ミシシッピ州など米本土10カ所でも行われ、残りは中部太平洋のマーシャル諸島で実施された。(客員編集委員・籔井和夫)
(2025年8月11日朝刊掲載)