社説 豪州へ護衛艦 武器輸出の拡大許されぬ
25年8月19日
「共同開発」の名の下で、なし崩しに武器輸出を拡大させるのは、平和国家としてあるべき姿なのか。
オーストラリア海軍の新型艦計画を巡り、日本が競合相手のドイツを制し共同開発の候補先に選ばれた。ベースとなるのは海上自衛隊が運用する最新鋭護衛艦もがみ型だ。
生産は、もがみ型を開発した三菱重工業が中心となる。オーストラリア側の求める性能を追加する実態は、日本からオーストラリアへの武器輸出に他ならない。
建造は11隻で、費用は最大100億豪ドル(約9500億円)と見込まれる。2029年からの納入を目指しており、価格交渉で最終合意すれば、殺傷能力のある護衛艦の輸出が初めて決まる。
今回の護衛艦輸出は、インド太平洋で海洋進出を強める中国を意識し、日豪の安全保障協力を深める狙いがあるのは間違いない。国内防衛産業の振興を図る目的もあろう。
もがみ型は高いステルス性能や米空母機動部隊に伴走できるスピード、日米と相互運用性を確保するシステムを備える。まさに包囲網強化のための輸出といえる。
オーストラリアにとって台湾有事は差し迫った問題だ。米軍が台湾防衛に参戦すれば支援に回るのは暗黙の了解だという。装備品供給や修理面で日本の協力に期待もある。
だが日本製武器の使用は、日本が戦後、国際社会で築いた信用を損なうことにもなりかねない。問われるのは護衛艦輸出が地域の安定に貢献するかどうかだ。包囲網を強めれば相手も対抗策に出る。緊張を高めては逆効果である。
日本は先の大戦の反省から武器輸出に慎重な姿勢を長年堅持してきた。だが安倍政権が14年に防衛装備移転三原則を導入。岸田政権は23年、武器輸出の推進に向け、三原則とその運用指針を改定した。
その後、英国、イタリアと共同開発を進める次期戦闘機の第三国への輸出を解禁するため、殺傷能力があっても「共同開発」の形なら閣議決定で認めるという抜け穴をつくった。今回の護衛艦は、それに先立つ案件になる見通しだ。
中古の護衛艦をフィリピン、インドネシア、ベトナムの東南アジア3カ国に輸出する案も、各国の要求に応じて仕様を変更する共同開発と位置付けて実現を図る。
安全保障政策の転換を政府・与党は密室協議で方向付けしてきた。共同開発は定義が曖昧で、抑制的に運用しなければ規制は形骸化する。専守防衛を掲げる憲法に照らして武器輸出拡大は許されない。
輸出ありきで運用方針を緩める手法は本末転倒で、国民的な合意には程遠い。運用方針は「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘5分野に限り輸出を認めるが、自民党はこの制限の撤廃を提言し、さらに骨抜きにする考えだ。連立を組む公明党は歯止めの役割を果たせていない。
国民を代表する国会での徹底した議論こそ、歯止めとなる。自公政権がないがしろにしてきたものである。規制変更や輸出案件ごとに国会が関与する仕組みが必要だ。
(2025年8月19日朝刊掲載)
オーストラリア海軍の新型艦計画を巡り、日本が競合相手のドイツを制し共同開発の候補先に選ばれた。ベースとなるのは海上自衛隊が運用する最新鋭護衛艦もがみ型だ。
生産は、もがみ型を開発した三菱重工業が中心となる。オーストラリア側の求める性能を追加する実態は、日本からオーストラリアへの武器輸出に他ならない。
建造は11隻で、費用は最大100億豪ドル(約9500億円)と見込まれる。2029年からの納入を目指しており、価格交渉で最終合意すれば、殺傷能力のある護衛艦の輸出が初めて決まる。
今回の護衛艦輸出は、インド太平洋で海洋進出を強める中国を意識し、日豪の安全保障協力を深める狙いがあるのは間違いない。国内防衛産業の振興を図る目的もあろう。
もがみ型は高いステルス性能や米空母機動部隊に伴走できるスピード、日米と相互運用性を確保するシステムを備える。まさに包囲網強化のための輸出といえる。
オーストラリアにとって台湾有事は差し迫った問題だ。米軍が台湾防衛に参戦すれば支援に回るのは暗黙の了解だという。装備品供給や修理面で日本の協力に期待もある。
だが日本製武器の使用は、日本が戦後、国際社会で築いた信用を損なうことにもなりかねない。問われるのは護衛艦輸出が地域の安定に貢献するかどうかだ。包囲網を強めれば相手も対抗策に出る。緊張を高めては逆効果である。
日本は先の大戦の反省から武器輸出に慎重な姿勢を長年堅持してきた。だが安倍政権が14年に防衛装備移転三原則を導入。岸田政権は23年、武器輸出の推進に向け、三原則とその運用指針を改定した。
その後、英国、イタリアと共同開発を進める次期戦闘機の第三国への輸出を解禁するため、殺傷能力があっても「共同開発」の形なら閣議決定で認めるという抜け穴をつくった。今回の護衛艦は、それに先立つ案件になる見通しだ。
中古の護衛艦をフィリピン、インドネシア、ベトナムの東南アジア3カ国に輸出する案も、各国の要求に応じて仕様を変更する共同開発と位置付けて実現を図る。
安全保障政策の転換を政府・与党は密室協議で方向付けしてきた。共同開発は定義が曖昧で、抑制的に運用しなければ規制は形骸化する。専守防衛を掲げる憲法に照らして武器輸出拡大は許されない。
輸出ありきで運用方針を緩める手法は本末転倒で、国民的な合意には程遠い。運用方針は「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の非戦闘5分野に限り輸出を認めるが、自民党はこの制限の撤廃を提言し、さらに骨抜きにする考えだ。連立を組む公明党は歯止めの役割を果たせていない。
国民を代表する国会での徹底した議論こそ、歯止めとなる。自公政権がないがしろにしてきたものである。規制変更や輸出案件ごとに国会が関与する仕組みが必要だ。
(2025年8月19日朝刊掲載)