社説 米ウクライナ首脳会談 殺りく 一刻も早く止めねば
25年8月20日
3年半に及ぶ戦火を止められるかもしれない。そんな光がかすかに見えてきた。
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、両国の大統領が近く首脳会談を開き、その後、米国のトランプ大統領も加わって3者会談を実施できるよう調整する、という。
ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談や、欧州首脳も交えた会合を重ねたトランプ氏が明らかにした。
実現すれば、停戦・和平への一歩となり得る。評価できる動きだろうが、越えなければならないハードルは多い。
そもそもロシアのプーチン大統領は、ゼレンスキー氏の大統領任期が昨年5月に終わっており、国家元首としての正統性を失ったと主張していた。すんなり首脳会談に応じるだろうか。
領土の問題もある。ロシアはウクライナ東部2州の全域割譲を求めている。一方のウクライナは、この2州の一部をロシアが実効支配している現状は認めつつ、領土はウクライナのものだと主張している。当然である。
というのも、武力による国境線変更は国際法上、認められないからだ。あしき前例を作ることになれば、アジアを含む他地域に悪影響を及ぼすことも予想される。
領土を巡る両国の主張は食い違うが、ゼレンスキー氏はプーチン氏と協議する考えを示している。懸念されるのは、トランプ氏の対応だ。ロシアの主張に沿って、領土割譲をウクライナに強いることは許されない。
ウクライナの安全をどう確保するかも、大きな課題だ。米欧によるウクライナの「安全の保証」をプーチン氏は容認したとトランプ氏は言うが、にわかには信じ難い。
ウクライナをロシア寄りの国に変えたいとの野望をプーチン氏は抱いている。これまでの戦いでロシアが失ったものも多いのに、あっさり諦められるだろうか。
たとえ、和平に向けてどんな約束をロシアと交わすことができたとしても、安心はできない。これまでプーチン氏は国際的な約束を平気で破ってきたからだ。欧米の隙を突いて、再び侵攻する恐れは拭い切れない。
しかも米国がどこまで関与するのかなど、安全を守る方策の具体化はこれからだ。果たして、プーチン氏の野望を食い止められるのか。
気になるのは、プーチン氏とトランプ氏が、停戦は和平の必要条件ではないと主張していることだ。停戦をなるべく遅らせて、その間に少しでも支配地域を広げようとロシアは考えているのだろう。盗っ人たけだけしい限りだ。
戦闘が続けば続くほど、民間人も含めて多くの命が失われ続ける。一刻も早く殺りくを終わらせるべきである。
和平が実現したとしても、戦争犯罪を忘れるわけにはいかない。プーチン氏自身、戦争犯罪の容疑で国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ている。自由と民主主義、法の支配を重んじる国々は今後も結束して、国際法違反や戦争犯罪には厳しい姿勢で臨むことが求められる。
(2025年8月20日朝刊掲載)
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、両国の大統領が近く首脳会談を開き、その後、米国のトランプ大統領も加わって3者会談を実施できるよう調整する、という。
ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談や、欧州首脳も交えた会合を重ねたトランプ氏が明らかにした。
実現すれば、停戦・和平への一歩となり得る。評価できる動きだろうが、越えなければならないハードルは多い。
そもそもロシアのプーチン大統領は、ゼレンスキー氏の大統領任期が昨年5月に終わっており、国家元首としての正統性を失ったと主張していた。すんなり首脳会談に応じるだろうか。
領土の問題もある。ロシアはウクライナ東部2州の全域割譲を求めている。一方のウクライナは、この2州の一部をロシアが実効支配している現状は認めつつ、領土はウクライナのものだと主張している。当然である。
というのも、武力による国境線変更は国際法上、認められないからだ。あしき前例を作ることになれば、アジアを含む他地域に悪影響を及ぼすことも予想される。
領土を巡る両国の主張は食い違うが、ゼレンスキー氏はプーチン氏と協議する考えを示している。懸念されるのは、トランプ氏の対応だ。ロシアの主張に沿って、領土割譲をウクライナに強いることは許されない。
ウクライナの安全をどう確保するかも、大きな課題だ。米欧によるウクライナの「安全の保証」をプーチン氏は容認したとトランプ氏は言うが、にわかには信じ難い。
ウクライナをロシア寄りの国に変えたいとの野望をプーチン氏は抱いている。これまでの戦いでロシアが失ったものも多いのに、あっさり諦められるだろうか。
たとえ、和平に向けてどんな約束をロシアと交わすことができたとしても、安心はできない。これまでプーチン氏は国際的な約束を平気で破ってきたからだ。欧米の隙を突いて、再び侵攻する恐れは拭い切れない。
しかも米国がどこまで関与するのかなど、安全を守る方策の具体化はこれからだ。果たして、プーチン氏の野望を食い止められるのか。
気になるのは、プーチン氏とトランプ氏が、停戦は和平の必要条件ではないと主張していることだ。停戦をなるべく遅らせて、その間に少しでも支配地域を広げようとロシアは考えているのだろう。盗っ人たけだけしい限りだ。
戦闘が続けば続くほど、民間人も含めて多くの命が失われ続ける。一刻も早く殺りくを終わらせるべきである。
和平が実現したとしても、戦争犯罪を忘れるわけにはいかない。プーチン氏自身、戦争犯罪の容疑で国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ている。自由と民主主義、法の支配を重んじる国々は今後も結束して、国際法違反や戦争犯罪には厳しい姿勢で臨むことが求められる。
(2025年8月20日朝刊掲載)