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戦争を考え語り合う大切さ 額賀澪さん「モノクロの夏に帰る」が文庫化 カラー化写真集読み着想

 広島などを舞台にした作家額賀澪さん(34)=東京都=の青春小説「モノクロの夏に帰る」が文庫化された。戦争中の写真を人工知能(AI)技術でカラー化した写真集をきっかけにして、80年前の戦争や世界の戦火について考え始める若者たちの姿を描く。(仁科裕成)

 20代の書店員や保健室登校の中学生、広島出身のテレビディレクター、米国から転校してきた高校生…。立場も年齢も違う登場人物が、1冊の写真集を手に取ったことで、戦争と向き合いながら自身を見つめ直していく物語だ。四つの短編作品を加筆修正し、新たに「最終話」を追加した。

 「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(庭田杏珠、渡邉英徳著、光文社)を読んで物語を着想した。「色が付くと雰囲気だけでなく人の表情も違って感じられた」と振り返る。

 作中、夏休みに友達と戦争について調べる女子中学生が登場する。「すごい大層な考察にたどり着かなくても『こういう気持ちになった』というだけで大きな一歩だと思う」と力を込める。

 額賀さんは、平和教育を受けたわけでもなく、身近に戦争経験者もいないことから、「戦争をテーマに書く資格がない」と思ってきた。「考えたり語り合ったりすることが大切だと気付いた。平成生まれの自分なりに、さあどう向き合おうかと考えていった物語でもあります」

着色で白黒と違う印象に 広島の修道中で出前授業

 額賀さんは7月中旬、広島市中区の修道中で出前授業をした。「AIとカラー化―」の著者である庭田杏珠さん(23)と、モノクロ写真をカラー化する意義などについて、生徒約280人を前に話し合った。

 庭田さんは、モノクロ写真をAIで着色後、被爆者たちへのインタビューを基に色を整える作業を紹介。「カラー化がきっかけで写っている人が名乗り出てくれた。被爆後の広島の状況など貴重な話を聞くことができた」と振り返った。

 額賀さんは、昭和天皇と写った連合国軍最高司令官のマッカーサー元帥の表情に注目。「白黒だと自信満々に見えたが、カラーになると少し緊張しているようで印象が変わった」と話した。

(2025年8月20日朝刊掲載)

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