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連載・特集

緑地帯 明石英嗣 岡山の文学者が伝える戦後80年②

 備前市出身で現在米国ニューヨーク州ウッドストックの森の中で執筆活動を続けている作家小手鞠るいさんの特別展「小手鞠るい 本の世界」を昨年、開催した。「職業として成り立つような物書きになりたい」と小説の執筆に本腰を入れて40年。少女時代は本の虫だった小手鞠さんが、いつしか創作の世界と出合い、多彩な物語を届けてきた半生を伝えた。

 本名は川滝かおりさん。物書きとしての出発点は詩作だ。同志社大の学生だった時に書店で雑誌「詩とメルヘン」を知り、1978年に初入選。これを機に、同誌の編集長で「アンパンマン」を生んだ漫画家やなせたかしさんとめぐり合う。

 「アンパンマン」は69年に雑誌PHPの大人向けの連載「こどものえほん」の第10回に初めて登場した。戦場の空を飛び、おなかをすかせた子どもたちへパンを届ける「アンパンマン」は、太平洋戦争で実弟を失ったやなせさんの反戦を願う心が色濃く反映されている。

 やなせさんのまな弟子である小手鞠さんも2018年、中高生向けに「ある晴れた夏の朝」を出版した。中国系やユダヤ系などさまざまな出自の米国の高校生が、広島と長崎に投下された原爆の是非を討論し、平和観を醸成する物語だ。小手鞠さんは新刊案内で「大人の使命は、未来をになう子どもたちに、戦争の記憶と物語を語り継いでいくこと」と語る。恩師のやなせさん同様、平和な世界を目指して筆を走らせ続けている。(吉備路文学館館長=岡山市)

(2025年8月20日朝刊掲載)

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