×

ニュース

カトリック界 核廃絶論じる 広島で集会やシンポ 日米韓から参加 非暴力の教義 抑止論を否定

 被爆80年に際し、広島市内で5、6日、カトリックの立場から核廃絶を目指す国際平和イベントが開かれた。広島司教区の招きで日米韓の司教団や、大学関係者、被爆者団体の代表が集まった。世界で幅を利かせる核抑止論に対し、宗教的倫理から否定する発言が続いた。米国出身のローマ教皇レオ14世に期待する声もあった。(城戸良彰)

 5日は、エリザベト音楽大(中区)で平和集会があった。広島と長崎に投下された原爆の開発拠点だったロスアラモス国立研究所がある、米西部ニューメキシコ州サンタフェ大司教区のジョン・ウェスター大司教が登壇。核兵器産業の不公正さを批判した。

 同研究所では今も核兵器研究、開発に巨額の資金が投じられている。ウェスター大司教によると、地元では核産業の振興が経済効果をもたらすと宣伝されている。

 だが研究所周辺が潤う一方、州全体の平均所得は低いままで、格差が生じているという。貧困層のケアに割くべき予算が流れているとし、「貧しい者から救済を奪う核兵器の奴隷となることはできない」と力を込めた。

 2023年から毎年8月に広島を訪れ、この集会に参加している。被爆者に向け、「痛ましい記憶を語り継ぐ勇気は核軍縮が実現不可能にも思える今、計り知れない価値がある」と語った。

 今年の集会には、米首都ワシントンや、シカゴの枢機卿2人が初参加。非核を訴える輪の一定の広がりを感じさせた。ワシントン大司教区のロバート・マケロイ枢機卿は、非暴力を願う教義に照らし「核抑止論は受け入れられない」と強調。保有国の道義的責任を問うた。

 韓国仁川司教区の鄭信喆(ジョン・シンチョル)司教も初めて参加し、「原爆投下で韓国人を含む多くのアジア人も命を奪われた」と指摘。「今なお被害や苦痛は続いているが、より良い明日を築くため、悲劇を振り返り続けないといけない」と述べた。

 広島司教区の白浜満司教は「被爆地の教会には高齢化していく被爆者の願いを受け止め、祈り、声を上げる使命がある」と決意を新たにした。

 マケロイ枢機卿は、6日に同大で開かれた「平和と核軍縮」を巡る学術シンポジウムでも発言。19年に広島を訪れ、核兵器の保有を「倫理に反する」と明確に非難した前ローマ教皇フランシスコについて、「核抑止力を平和の源泉でなく、国際関係の不安定要因と位置付けた」とその見識をたたえた。

 5月に選出された教皇レオ14世について、「3カ月の在位期間で繰り返し非暴力を強調してきた」と紹介。前教皇の訴えを継承し、歩みを進めることに期待をにじませた。

教皇レオ14世 反核メッセージ要旨

 5日の平和集会には、教皇レオ14世が「武器のない平和」を国際社会に呼びかける核廃絶のメッセージを寄せた。メッセージは集会後、世界平和記念聖堂(広島市中区)であったミサで信徒たちに披露された。要旨は以下の通り。(カトリック中央協議会の訳を参考にし、※で注も加えました)

 広島と長崎への原爆投下80年を記念して集まられた全ての方々に心からごあいさつ申し上げます。特に私は、生存する被爆者の方々に敬意と愛情の思いを表明いたします。彼らの喪失と苦しみの歴史は、より安全な世界を築き、平和の環境を推進するための、私たち皆への時宜を得た呼びかけです。

 長い年月がたってなお、二つの都市は核兵器がもたらした深刻な恐怖をまざまざと思い起こさせ続けます。その街路、学校、家は、あの運命の1945年8月の―目に見えるものも霊的なものも含めた―傷痕を今もとどめています。私は愛する前任者、教皇フランシスコがしばしば用いた言葉を繰り返すように促されます。「戦争は常に人類にとって敗北です」

 長崎の被爆を生き延びた永井隆博士はこう書いています。「『愛』の人は、すなわち『勇』の人であり、勇の人は武装しない」。実際、真の平和は勇気をもって武器を、特に筆舌に尽くしがたい大惨事を引き起こす力を持つ武器を下ろすことを要求します。核兵器は、私たち共通の人間性を傷つけるとともに、被造界(※神によって造られた世界)の尊厳をも裏切ります。私たちはこの被造界の調和を守るように招かれています。

 世界的な緊張と紛争が激化する現代において、広島と長崎は「記憶の象徴」として立ち上がります。それは相互確証破壊に基づく安全保障(※核抑止論に相当)の幻想を拒否するように私たちを促します。むしろ私たちは、正義と兄弟愛と共通善に根差したグローバルな倫理を築かなければなりません。

 それゆえ私は、この荘厳な記念日が全人類家族のための永続的な平和、つまり武器のない平和、武器を取り除く平和の追求を新たにすることの国際社会への呼びかけとして役立つことを祈ります。

 この日を記念する全ての方々に神の豊かな祝福を心から祈ります。

(2025年8月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ