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朝鮮半島出身者 辛苦伝える写真 京都で伊藤さん「原爆棄民」展 過酷な境遇語る 記録集も出版

 朝鮮半島出身の被爆者の取材を1980年代から続ける写真家の伊藤孝司さん(73)が、京都市北区の立命館大国際平和ミュージアムで写真展「原爆棄民」を開いた。伊藤さんは「被爆者であっても誰からも何もしてもらえず、非常に大変な生活をしていた」と初期の取材を振り返り、一人一人が訴えた切実な思いや辛苦を来場者に語った。

 写真展は7月19日~今月9日にあり、ギャラリートークが5回開かれた。最終日のトークには35人が参加。伊藤さんは写真パネル約80枚を並べた会場を巡りながら、取材を振り返った。

 80~90年代に韓国で出会った被爆者は、ひどいケロイドが残ったままの人が多くいたという。在外被爆者は現行の被爆者援護法からも長年切り捨てられていたためで「当時でも被爆から40~50年たっているのに大きな痕がそのまま。日本にいれば早い時期に少しでも治せていた」と憤った。

 国交がないため現在も援護の対象外にある北朝鮮で取材した女性については、入市被爆を証明する書類があるとして「日本にさえ行ければ被爆者健康手帳を間違いなく取得できる」と強調した。一方で、日本との間に拉致問題があるため「人道的な課題が一切止まっている」と残念がった。

 長年の取材を通じ、伊藤さんは「原爆を落とした米国の責任と、植民地支配をした上に戦争を起こした日本の責任を改めて問う必要がある」と力を込めた。ただ、被爆者の高齢化や援護拡大に伴い、追及する声が弱まっていると懸念した。

 韓国原爆被害者協会が72年に出した推計では、徴用などで日本に渡った朝鮮半島出身者や家族は広島約5万人、長崎約2万人の計約7万人が被爆したとされる。伊藤さんは韓国や北朝鮮などで被爆者約150人を取材。今夏、写真記録「原爆棄民」(87年刊)増補改訂版を論創社から出版した。(藤村潤平)

(2025年8月25日朝刊掲載)

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