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社説・コラム

天風録 『古希の原爆資料館』

 初日の様子を伝える本紙の記事は意外にも、わずか5行だった。きょう開館70年の原爆資料館。「参観者は朝からどっと押しかけ、600名を越える盛況ぶりをみせた」と、にぎわいを記している▲資料館の原点となったのは、中央公民館の一室にあった「陳列室」。原爆の熱線で溶けた石や瓦が展示の中心で、手弁当で集めた地質学者で初代館長となる故長岡省吾さんの苦労がしのばれる。その後、公民館の隣に木造平屋の「記念館」が設けられたが、台所事情は苦しかった▲平和記念公園に資料館が完成したのは原爆投下の10年後。被爆の惨状を発信する土台がようやく整えられた。折しも世界では、科学者による「ラッセル・アインシュタイン宣言」が出され、核戦争の脅威に対する警鐘が鳴り響いていた▲古希を迎えた資料館は様変わりした。入館者は桁違いに増え、昨年度は200万人を初めて超えた。首脳を含む海外訪問客も定着。被爆者の遺品といった収蔵品も2万点を大きく上回る▲あの日の惨状を証言できる被爆者が減る中、資料館の役割は重みを増している。展示物の発する警告に耳を澄ませたい。人類は今も滅亡の危機から抜け出せてはいないのだ。

(2025年8月24日朝刊掲載)

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