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被爆の惨状描く 「屍の街」「夕凪の街と人と」 大田洋子の代表作 岩波文庫入り

 戦後80年を機に、被爆作家大田洋子(1903~63年)の「屍(しかばね)の街」「夕凪(ゆうなぎ)の街と人と」が、岩波文庫で刊行された。大田作品の同文庫入りは初めて。出版社の岩波書店は「長く読み継がれていくように努めたい」としている。

 「屍の街」は、被爆後の惨状を丹念に記録し、文学へと高めた大田の代表作。占領軍によるプレスコード(報道規制)下の苦労をつづった「序」も収めた。「夕凪の街と人と」は、バラック群が並ぶ広島が舞台。被爆から8年が経過しても、人間の精神や生活に深刻な影響を及ぼし続ける原爆の恐ろしさを描いている。

 解説は大田と交流のあったノンフィクション作家、江刺昭子さんが担当した。江刺さんは、大田の原爆文学は絶版などによって手に入りにくい時期があり、原民喜や峠三吉ほど知られていないと説明。その要因に文壇の「女性作家に対するジェンダー差別がある」と指摘する。大田作品に登場する被爆した女性たちの苦難についても「日本社会に根深いジェンダー構造からくるもので、女性の視点での読みなおしも必要」と期待する。590ページ、1386円。(仁科裕成)

(2025年8月27日朝刊掲載)

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