[被爆80年] 惨状の切り絵 43年ぶり復刊 画家の故寺尾知文さん画文集
25年8月27日
広島女学院高卒業生の動画 糸口に
画家の寺尾知文さん(2000年に82歳で死去)が自らの被爆体験を描いた切り絵画文集「原爆 ヒロシマ」が今夏、43年ぶりに復刊した。絶版になり、出版社も著作権者と連絡を取れなかったが、広島女学院高(広島市中区)の卒業生がユーチューブで発信した朗読動画が糸口となった。(山下美波)
兵庫県出身の寺尾さんは戦時中、鯛尾(広島県坂町)の陸軍船舶司令部(通称暁部隊)船舶整備教育隊に所属し、原爆投下直後に市内で救護活動をした。「森羅万象、すべてのものが、えんえんと燃える、にんげんのつくり上げた、生き地獄……」。画文集は体験記とともに、目の当たりにした惨状を白黒の切り絵72点で表している。
戦前は京都で染色業に従事し、戦後は東京を拠点に雑誌や新聞の挿絵を描くなどして活躍した。長く被爆体験は胸にしまっていたが、風化を懸念し「いまこそ描かなければ、明日では遅すぎるかもしれない」(前書き)と1982年に光人社から出した。
同社の後身「潮書房光人新社」(東京)が被爆80年に合わせ復刊を計画。編集部員の坂梨誠司さん(64)は「被爆者一人一人の姿を丁寧に描いた切り絵に引かれた。節目の年にこの作品を素通りするわけにはいかなかった」。著作権者を捜す中で偶然、広島女学院高の関西在住の同窓生でつくる「ヒロシマを語り継ぐ会」による画文集の朗読動画を見つけた。
「寺尾さんの切り絵のパネル展を神戸市内で開いたら反響が大きくて朗読作品に仕立てた」と代表の浅海和子さん(77)=神戸市。18年から神戸市内で上演し、新型コロナウイルス禍を機に35分間の動画にした。
会や親交があった大学教員が協力し、坂梨さんは著作権者の大岩修さん(77)=東京=と接触できた。寺尾さんの亡き一人娘の夫である大岩さんは坂梨さんの熱意に触れ、快諾。自身も遺品整理で見つけた一冊を大切に保管していた。本人から被爆体験を聞いたことはなく「正直、刺激的な内容なので精読できていない。復刊を機にじっくり読みたい」と話す。
授業での活用を考える学校もあるという。坂梨さんは「長めの文章だが、中高生でも十分、被爆者の痛みを感じられる内容。ぜひ手に取ってほしい」と期待する。A5判変型、104ページ。2420円。
(2025年8月27日朝刊掲載)