社説 上関で中間貯蔵「可能」 「建設ありき」では困る
25年8月30日
原発から出る使用済み核燃料を中間貯蔵する施設について、中国電力は山口県上関町の計画地への「立地は可能」とする調査報告書を町に提出した。町は今後、報告書や事業計画などを踏まえ、受け入れの可否を決める。
町民の賛否は真っ二つに割れている。原発計画を巡って40年以上前から続く分断が、深刻化しかねない。町は町民や周辺自治体の不安に真摯(しんし)に耳を傾け、多くの人が納得できる結論を導く必要がある。
中電と関西電力が共同で建設を検討すると表明してから2年。調査開始から「立地可能」と判断するまでの流れは既定路線に違いない。
発端は、町が止まったままの原発計画に代わる地域振興策を中電に要望したこと。国からの交付金が減り、町財政が悪化する中で打開策を探った。中電の示した答えが中間貯蔵施設だった以上、町側には「建設ありき」の方針がベースにあるのだろう。
一方、中国新聞が昨年実施した町民アンケートでは計画に「賛成」または「どちらかといえば賛成」と答えた人は44・3%、「反対」または「どちらかといえば反対」は44・8%と賛否が拮抗(きっこう)した。
反対の理由としては、長期貯蔵や安全性への懸念、関電の核燃料を受け入れることへの反発などが上位を占めた。西哲夫町長はこうした声と向き合い、中電や国とも連携して説明を尽くす責任がある。
中電の調査報告書は、地震や津波などに襲われても「大きな影響は及ぼさない」とした。しかし、災害大国の日本には「絶対の安全」などあり得ない。
自然災害やテロ行為などで不測の事故が起きれば、広範囲に影響が及びかねない。建設反対の決議案を可決した同県田布施町議会をはじめ、近隣市町から懸念する声が上がるのも当然だ。丁寧な説明や対話に努めてもらいたい。
もっとも本来は自治体レベルでなく、国のエネルギー政策の枠組みの中で議論すべき問題だろう。中間貯蔵の前提となる「核燃料サイクル」は行き詰まりが明白だからだ。
貯蔵した使用済み核燃料を搬入し、プルトニウムを取り出すはずの青森県六ケ所村の再処理工場は着工から32年、いまだ稼働していない。プルトニウムを燃やす高速増殖炉も頓挫した。再利用できない高レベル放射性廃棄物の最終処分地も宙に浮いたままだ。
にもかかわらず政府は「原発を最大限活用する」と原発回帰にかじを切った。島根原発2号機などの再稼働が相次ぎ、関電は原発の新設検討に乗り出している。着実に膨らむつけを将来世代に回すことにならないか。
同じ中間貯蔵施設が昨年、青森県むつ市で稼働した。先の展望が描けない現状では、半永久的な貯蔵地となるリスクが拭えない。それは上関町にも当てはまる。
石破政権は原発の半径30キロの自治体に財政支援を拡大するなど、「原発マネー」で過疎自治体をなびかせる姿勢を崩さない。それで未来が開けるのか、各地域はゼロベースから考えていく必要がある。
(2025年8月30日朝刊掲載)
町民の賛否は真っ二つに割れている。原発計画を巡って40年以上前から続く分断が、深刻化しかねない。町は町民や周辺自治体の不安に真摯(しんし)に耳を傾け、多くの人が納得できる結論を導く必要がある。
中電と関西電力が共同で建設を検討すると表明してから2年。調査開始から「立地可能」と判断するまでの流れは既定路線に違いない。
発端は、町が止まったままの原発計画に代わる地域振興策を中電に要望したこと。国からの交付金が減り、町財政が悪化する中で打開策を探った。中電の示した答えが中間貯蔵施設だった以上、町側には「建設ありき」の方針がベースにあるのだろう。
一方、中国新聞が昨年実施した町民アンケートでは計画に「賛成」または「どちらかといえば賛成」と答えた人は44・3%、「反対」または「どちらかといえば反対」は44・8%と賛否が拮抗(きっこう)した。
反対の理由としては、長期貯蔵や安全性への懸念、関電の核燃料を受け入れることへの反発などが上位を占めた。西哲夫町長はこうした声と向き合い、中電や国とも連携して説明を尽くす責任がある。
中電の調査報告書は、地震や津波などに襲われても「大きな影響は及ぼさない」とした。しかし、災害大国の日本には「絶対の安全」などあり得ない。
自然災害やテロ行為などで不測の事故が起きれば、広範囲に影響が及びかねない。建設反対の決議案を可決した同県田布施町議会をはじめ、近隣市町から懸念する声が上がるのも当然だ。丁寧な説明や対話に努めてもらいたい。
もっとも本来は自治体レベルでなく、国のエネルギー政策の枠組みの中で議論すべき問題だろう。中間貯蔵の前提となる「核燃料サイクル」は行き詰まりが明白だからだ。
貯蔵した使用済み核燃料を搬入し、プルトニウムを取り出すはずの青森県六ケ所村の再処理工場は着工から32年、いまだ稼働していない。プルトニウムを燃やす高速増殖炉も頓挫した。再利用できない高レベル放射性廃棄物の最終処分地も宙に浮いたままだ。
にもかかわらず政府は「原発を最大限活用する」と原発回帰にかじを切った。島根原発2号機などの再稼働が相次ぎ、関電は原発の新設検討に乗り出している。着実に膨らむつけを将来世代に回すことにならないか。
同じ中間貯蔵施設が昨年、青森県むつ市で稼働した。先の展望が描けない現状では、半永久的な貯蔵地となるリスクが拭えない。それは上関町にも当てはまる。
石破政権は原発の半径30キロの自治体に財政支援を拡大するなど、「原発マネー」で過疎自治体をなびかせる姿勢を崩さない。それで未来が開けるのか、各地域はゼロベースから考えていく必要がある。
(2025年8月30日朝刊掲載)