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[広島と映画の今] パセーラに27年春「アップリンク広島」開業 浅井隆社長に聞く

「平和」考える作品 毎日上映

5スクリーン計264席 「ミニシアター・コンプレックス」

 広島市中区の商業施設パセーラに2027年春、映画館「アップリンク広島」が開業する。「ミニシアター・コンプレックス」として5スクリーンで計264席(1スクリーン30~71席)を計画。広島から世界の平和を考える作品の上映枠を毎日設ける。運営するアップリンク(東京)の浅井隆社長に構想を聞いた。(渡辺敬子)

 ―旧そごう広島店新館(23年閉館)の紳士服売り場があった6階にオープン。カフェやギャラリー、イベントスペースも設けるそうですね。
 2年前に打診を受けた。18年から東京の吉祥寺パルコでアップリンク吉祥寺(5スクリーン計300席)、20年から京都市の新風館でアップリンク京都(4スクリーン計214席)を運営し、既存の商業施設内に映画館をつくるノウハウがある。

 新型コロナウイルス禍の影響もあってアップリンク渋谷(東京)を21年に閉館し、現時点で広島が3館目となる。そばに大型書店や文化教室があり、文化に関心を持つ人がアクセスしやすい。

 吉祥寺や京都と同様、劇場内のデザインや音響設備にこだわりたい。若い世代に大音量でいい音を楽しみ、ライブビューイングの没入感も味わってほしい。世界の映画祭の注目作からアート系、インディーズ、ドキュメンタリー、家族向けまで幅広く上映する。

 ―JR広島駅ビルにMOVIX広島駅が3月に開業し、広島都市圏は映画館が集中しています。
 設備ではMOVIXにかなわないし、老舗のミニシアターと上映作品を取り合うつもりもない。広島という立地を踏まえ、「サラーム(アラビア語で平和の意味)・スクリーン」と名付けた上映枠を設ける。世界の問題を考えるきっかけをくれる作品を毎日上映したい。

 映画は世界の多様な文化を伝えるのに最適なメディアだ。アップリンクは、パレスチナ自治区ガザの映像制作会社アレフ・マルチメディアと共同で、人々の暮らしや肉声を映像で伝えるプロジェクト「ガザからの声」シリーズの製作を進めている。

 5月に撮影した第1弾を今月から配信中で、10月には7月に撮った第2弾を出す。映画より早いスピードで、ガザで起きていることを作品として届ける。破壊されたガザの街は80年前の広島とも似ている。ガザの人々は広島がどうやって平和都市として復興したのか、強い関心を持っている。

 ―広島に拠点を持つ意味も大きいのですか。
 原爆資料館には連日、多くの外国人が足を運んでいる。平和に対するリテラシーの高い人々が集まる街。より深く知りたいと思う人々のためのプログラムを考えたい。広島のテレビ局が制作した原爆に関する番組や、記録映像に字幕を付けて紹介できれば需要はあるはずだ。

 吉祥寺や京都、さらにガザとオンラインで結び、トークイベントで市民が対話することも考えている。広島の映像作品を世界へ配信することもできる。ネット環境とテクノロジーを使いこなせば、世界はつながることができる。映像のハブ(結節点)としてみんなが利用してくれるプラットフォームをつくりたい。

あさい・たかし
 1955年大阪府生まれ。18歳で上京し、寺山修司の演劇実験室「天井桟敷」で舞台監督などを務める。87年に映画配給会社アップリンク設立。映画館運営や映像作品のプロデュース、映像配信、出版、飲食など幅広く手がける。

(2025年8月30日朝刊掲載)

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