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南西諸島へ地理的優位 日鉄呉跡地 複合防衛拠点整備案 周辺部隊と連携容易に

 呉市の日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区跡地への複合防衛拠点の整備案を巡り、防衛省は2026年度予算の概算要求に土地取得に向けた経費を計上し、防衛強化の構想に基づく大規模な基地整備を着々と進める。九州南端から台湾へ連なる南西諸島で有事があった場合、物資と人員を送り出し、現地部隊を支える。対応しやすい地理的優位性が整備の背景にあるという。

 25年3月に発表した配置案によると、約130ヘクタールの跡地に大型艦船が接岸できる岸壁を整え、物資と燃料、弾薬などを保管する。防衛装備庁の研究施設、無人機の製造・整備施設も見込む。

 同月には隣接する海上自衛隊呉基地に陸海空自衛隊の共同部隊「自衛隊海上輸送群」が発足したばかり。近くの広島県海田町には、中国地方5県を管轄する陸上自衛隊第13旅団が所在する。瀬戸内海に面して複合防衛拠点ができれば、各部隊と連携しやすく、南西諸島や太平洋に移動しやすい利点があるという。

 政府は22年に防衛力整備計画を策定した。防衛費を倍増し、27年度までの5年間で計43兆円を見込む。中国の海洋進出や台湾有事への懸念から南西諸島に部隊を配備し、長射程ミサイルの取得も進める。

 複合防衛拠点整備に向けては概算要求に6億円を計上した。広島大大学院の永山博之教授(安全保障論)は防衛費倍増によって整備が可能になったと指摘。「これまで艦船や航空機の取得を優先し、保守、整備にお金を回せていなかったが、対応できるようになった」とみる。製造から補給・整備、研究開発まで担う広大な拠点は「国内では前例がない」と話す。

 地元からは、大規模な軍事施設は有事の際に攻撃目標にされかねないとの懸念も指摘されている。(宮野史康)

「南西シフト」中国地方でも

 政府が防衛強化で重視する「南西シフト」の動きが近年、中国地方でも相次ぎみられる。有事に自衛隊などの利用に備える「特定利用空港・港湾」に山口宇部空港(宇部市)境港(境港市)を指定。米軍岩国基地(岩国市)を拠点にした日米の共同訓練も進む。

 政府は8月29日、山口宇部空港を特定利用空港・港湾に追加した。指定された空港では戦闘機や輸送機の離着陸が可能となるよう、滑走路の延伸や駐機場の整備を進める。港湾では輸送艦や護衛艦の接岸に向け、海底の掘り下げや岸壁の整備をする。

 有事の場合の避難計画も策定した。山口県内では沖縄県石垣市の住民1万2611人を山口、防府、下関、宇部、山陽小野田の5市で受け入れる想定が示された。

 米軍岩国基地では昨年、国内で初めて海軍の輸送機オスプレイが配備され、最新鋭のステルス戦闘機F35Cも飛行を始めた。日米の共同訓練の活発化と併せて南西諸島防衛強化の一環との指摘がある。(宮野史康)

(2025年9月2日朝刊掲載)

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