『潮流』 エノラ・ゲイの悲劇
25年9月4日
■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美
テクノポップのイントロは確かに聞き覚えがあるものの、英語の歌詞を気にしたことはなかったな…。音楽配信サイトで1980年ごろの英ヒット曲「エノラ・ゲイの悲劇」を探して聴いた。
広島原爆「リトルボーイ」を投下したB29爆撃機で、機長の母の名前でもある「エノラ・ゲイ」に向けて、「昨日は家にいるべきだったよ」「こんな終わり方にすべきでなかった」と諭す。実は痛烈な反戦歌。
詞を確認したのは、ともに広島出身の吉川晃司さんと奥田民生さんが結成した「Ooochie Koochie(オーチーコーチー)」のアルバム収録曲「リトルボーイズ」がきっかけだ。被爆2世の吉川さんが歌う。〈「エノラ・ゲイの悲劇」を僕は新天地のディスコで踊った 歌の意味も知らないまま ただすべてに無知で無邪気で〉
その吉川さんは先月、中国新聞社などが東京都写真美術館で開いた「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」に来場し、取材にも応じた。高校生当時は「恥ずかしいが、何も知らなかった」。若気の至り、あるいは時世を理由に「仕方がなかった」と片付けず、40年以上後に悔恨を詞にした。
取材中、図らずも故森滝市郎さんを思い浮かべた。かつて戦争に協力し、一時は原子力の平和利用に希望を寄せたことを自己批判し、原水爆禁止を訴えた被爆者。「核時代」に生きる自らの来し方と向き合い、自省をも社会に語る誠実さはどこか重なる気がした。
私も原爆報道に携わる以前の若い頃だったら、14万人の死を告発する歌詞の意味を知らずに「イエーイ!」と無邪気に踊ったかもしれない。今ごろ、羞恥心をただ胸の内にとどめているだろう。
(2025年9月4日朝刊掲載)
テクノポップのイントロは確かに聞き覚えがあるものの、英語の歌詞を気にしたことはなかったな…。音楽配信サイトで1980年ごろの英ヒット曲「エノラ・ゲイの悲劇」を探して聴いた。
広島原爆「リトルボーイ」を投下したB29爆撃機で、機長の母の名前でもある「エノラ・ゲイ」に向けて、「昨日は家にいるべきだったよ」「こんな終わり方にすべきでなかった」と諭す。実は痛烈な反戦歌。
詞を確認したのは、ともに広島出身の吉川晃司さんと奥田民生さんが結成した「Ooochie Koochie(オーチーコーチー)」のアルバム収録曲「リトルボーイズ」がきっかけだ。被爆2世の吉川さんが歌う。〈「エノラ・ゲイの悲劇」を僕は新天地のディスコで踊った 歌の意味も知らないまま ただすべてに無知で無邪気で〉
その吉川さんは先月、中国新聞社などが東京都写真美術館で開いた「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」に来場し、取材にも応じた。高校生当時は「恥ずかしいが、何も知らなかった」。若気の至り、あるいは時世を理由に「仕方がなかった」と片付けず、40年以上後に悔恨を詞にした。
取材中、図らずも故森滝市郎さんを思い浮かべた。かつて戦争に協力し、一時は原子力の平和利用に希望を寄せたことを自己批判し、原水爆禁止を訴えた被爆者。「核時代」に生きる自らの来し方と向き合い、自省をも社会に語る誠実さはどこか重なる気がした。
私も原爆報道に携わる以前の若い頃だったら、14万人の死を告発する歌詞の意味を知らずに「イエーイ!」と無邪気に踊ったかもしれない。今ごろ、羞恥心をただ胸の内にとどめているだろう。
(2025年9月4日朝刊掲載)