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社説・コラム

『書評』 郷土の本 生き抜いた人々 その精神に学ぶ

 中沢啓治さんの名作漫画「はだしのゲン」では、原爆投下後の焦土をたくましく生き抜く人々が描かれる。広島市西区在住の作家岡部麒仙(きせん)さん(45)はそこに戦後日本の歩みを重ね、「はだしのゲンと経済復興」を刊行した。

 今日を生き延びるための食料や金をどう手に入れるか。知恵と体力を振り絞り、時には犯罪行為もいとわない主人公たちに「極限状態の中で生きようともがいた平凡な庶民」と寄り添う。

 原爆傷害調査委員会(ABCC)の謝礼目当てに遺体を届けたり、田舎で仕入れたコメを闇市で高く売りさばいたり。清濁を併せのむ人々の「稼ぎ方」には改めて驚かされる。焼け跡から懸命に再起しようともがく力が「日本の戦後経済の驚異的な復興を支える原動力になった」と断じているのも印象深い。

 生きることへの渇望や工夫、挑戦心…。現代の日本社会が失ったものを問い直し、「ゲンたちのまねはできないが、その精神から学ぶべきことは多い」と力を込める。

 パブフル、1100円、電子版500円。 (加納優)

(2025年9月7日朝刊掲載)

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