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社説・コラム

社説 国連創設80年 国際秩序回復へ改革急務

 国連は1945年10月、第2次世界大戦の終結とともに創設された。80年の節目の総会が米ニューヨークの国連本部で現地時間の今月9日、開幕した。

 国の大小を問わぬ主権の平等や国際法の尊重、武力行使の原則禁止など、2度の大戦の教訓を憲章は掲げる。多国間協調で世界の平和と安定に貢献する役割が期待された。

 ところが武力侵攻の阻止や紛争解決に無力さを露呈している。核の威嚇を伴うロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの攻撃を止められず、国連を中心とする国際秩序は崩壊の危機にさらされている。

 最高意思決定機関である安全保障理事会の常任理事国だけが持つ「拒否権」が障害になっている。安保理決議には全加盟国が従わなければならないが、先の大戦の戦勝国である米英仏ロ中の5常任理事国が一つでも反対すれば否決されるからだ。

 ウクライナ侵攻はロシアの拒否権で非難決議すら採択できず、イスラエルの蛮行に対する停戦決議は後ろ盾の米国の拒否権で葬られた。大国の横暴が機能不全を招く「時代遅れの組織」(グテレス事務総長)の限界を私たちは目の当たりにしている。

 予算の最大拠出国の米国でトランプ大統領が返り咲き、国連への資金削減を開始。組織のスリム化を迫られ、本部をケニアなどコストの低い地域に移すことも検討する。

 とはいえ、ほぼ全ての国が参加する組織は国連の他にない。冷戦が終結して多極化が進み、新興国が台頭するなど国際社会は80年前と様変わりした。気候変動、感染症など地球規模の課題解決へ土台としての役割は重みを増す。

 国連改革は急務だ。しかし憲章改正は常任5カ国を含む加盟国の3分の2以上の賛成が必要でハードルが高い。過去に何度も頓挫してきた。

 それでも昨年の未来サミットで、拒否権の制限について議論を進めると合意した。紛争当事国となったら拒否権行使を制限・禁止する制度が考えられよう。総会の権限を強めることも目指すべきだ。

 ただ大国が国連を見限れば、「力は正義」の世界に逆戻りする。そうしたジレンマを抱えつつ、加盟国は合意形成に努力を尽くすしかない。

 忘れてならないのは、平和維持活動や人道援助、難民支援といった分野で国連が存在感を示してきたことだ。専門機関の地道な取り組みも評価されよう。例えば国連訓練調査研究所(ユニタール)。被爆地広島に拠点を置く国連機関として紛争を経験した国の人づくりを支援してきた。

 日本は平和国家として、国連中心主義を戦後外交の柱に据えてきた。法の支配や多国間主義の回復へ、国連改革の先頭に立つべきだ。

 創設翌年の第1回総会で国連は核兵器廃絶を目指すと決議した。今回の総会が最後の外遊となりそうな石破茂首相は今夏の広島と長崎で誓った「核兵器のない世界」実現への決意を示すとともに、この第1号決議に立ち返れと加盟国に呼びかけてもらいたい。

(2025年9月10日朝刊掲載)

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