[記者×思い] 胸に咲くパレスチナの花 報道センター文化担当 福田彩乃
25年9月10日
家事の合間、絵本を適当に読み飛ばそうとすると息子にばれる。34歳。
ある1枚の絵に足が止まった。8月下旬、広島市中区のギャラリーGを訪れた時のことだ。1人の男の子が白い鳥の背に乗って、色鮮やかなポピー畑の上を飛んでいく。この子もパレスチナの子だろうか。うちの子と同い年くらい―。考えた途端、涙がこみ上げた。
約1年半の産休、育休を経て今春、職場に復帰した。担当分野は美術で、休む前と変わらない。なじみのギャラリーにちょっと立ち寄ったつもりが、長居になった。
出合ったのは「つながる世界」展。酒井駒子さんや長谷川義史さん、さこももみさんたち絵本作家20人余りが、イスラエル軍の攻撃にさらされるパレスチナ自治区ガザの子どもたちを思い、絵に表した。鳥と戯れる男の子、双子の赤ちゃんを抱いて喜ぶ夫婦…。爆撃で亡くなった人々の途切れた日常が、祈るような筆致で画布に刻まれていた。
子育てを始めて、分かったことがある。あれこれと気をもむ親をよそに、子はぐんぐん育つ。親がしてやれることは案外少ない。安心できる家で帰りを待ち、温かいご飯を用意して、ぎゅっと抱き締めて。明日も元気であれと願う。どの国の親も同じだろう。だが、そのささやかな営みでさえ、戦火は踏みにじる。
展覧会からの帰り際、展示作がポストカードになっていることに気が付いた。収益はパレスチナの支援に充てられるという。見本の束をめくるうち、複数の作品に描かれたモチーフが気になった。ポピーの花だ。聞けば、パレスチナのシンボルなのだそう。ポピー畑の上を飛ぶ、鳥に乗った男の子のカードを求めてギャラリーを出た。
以来、長男を膝に乗せ、絵本を開くたびに、ふと思い浮かべる。赤いポピーの花畑。遠い国の出来事だと、忘れてはならない。目を背けてはならない。そのうえで、考える。私にできることは何だろう。胸の内で咲いたポピーが、風に揺れて根を張っている。
(2025年9月10日朝刊掲載)
ある1枚の絵に足が止まった。8月下旬、広島市中区のギャラリーGを訪れた時のことだ。1人の男の子が白い鳥の背に乗って、色鮮やかなポピー畑の上を飛んでいく。この子もパレスチナの子だろうか。うちの子と同い年くらい―。考えた途端、涙がこみ上げた。
約1年半の産休、育休を経て今春、職場に復帰した。担当分野は美術で、休む前と変わらない。なじみのギャラリーにちょっと立ち寄ったつもりが、長居になった。
出合ったのは「つながる世界」展。酒井駒子さんや長谷川義史さん、さこももみさんたち絵本作家20人余りが、イスラエル軍の攻撃にさらされるパレスチナ自治区ガザの子どもたちを思い、絵に表した。鳥と戯れる男の子、双子の赤ちゃんを抱いて喜ぶ夫婦…。爆撃で亡くなった人々の途切れた日常が、祈るような筆致で画布に刻まれていた。
子育てを始めて、分かったことがある。あれこれと気をもむ親をよそに、子はぐんぐん育つ。親がしてやれることは案外少ない。安心できる家で帰りを待ち、温かいご飯を用意して、ぎゅっと抱き締めて。明日も元気であれと願う。どの国の親も同じだろう。だが、そのささやかな営みでさえ、戦火は踏みにじる。
展覧会からの帰り際、展示作がポストカードになっていることに気が付いた。収益はパレスチナの支援に充てられるという。見本の束をめくるうち、複数の作品に描かれたモチーフが気になった。ポピーの花だ。聞けば、パレスチナのシンボルなのだそう。ポピー畑の上を飛ぶ、鳥に乗った男の子のカードを求めてギャラリーを出た。
以来、長男を膝に乗せ、絵本を開くたびに、ふと思い浮かべる。赤いポピーの花畑。遠い国の出来事だと、忘れてはならない。目を背けてはならない。そのうえで、考える。私にできることは何だろう。胸の内で咲いたポピーが、風に揺れて根を張っている。
(2025年9月10日朝刊掲載)