社説 [地域の視点から] 岩国でFCLP実施へ 「やりたい放題」容認できぬ
25年9月15日
在日米海軍司令部が、空母艦載機による陸上空母離着陸訓練(FCLP)を17日から米軍岩国基地(岩国市)で行うと発表した。岩国での実施は2000年以来。夜間を含め激しい騒音が予想される。周辺住民に一層の負担を強いるもので到底容認できない。
FCLPは、基地の滑走路を空母の甲板に見立て、戦闘機などが車輪を地面に着けた直後に離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。パイロットの感覚を養うため部隊の運用に不可欠とされる。
現在は東京・小笠原諸島の硫黄島が暫定的な訓練場になっている。このところ火山活動が続いているため、予備施設の一つである岩国に移すと一方的に通告してきた。
しかし、すんなりと受け入れられる話ではない。17年に始まった厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機移転で、岩国市は「FCLPを実施しないこと」を受け入れの条件にしていたからだ。当時の安倍晋三首相も国会で「基本的に岩国で実施することはない」と答弁した。
米軍側は「岩国で実施しない」とは明言していない。だが滑走路は民間機の飛行場にも使われている。運航や安全に影響はないのか。地元に誠意ある態度を見せるべきだ。
基地周辺の住民が憤るのは当然だ。「FCLPがあったら、米側のやりたい放題だ」。飛行差し止めなどを国に求める第2次爆音訴訟の原告団事務局長は語気を強める。
基地周辺の騒音の回数は滑走路の沖合移設を終えた10年度以降に減ったが、艦載機の移転から増える傾向にある。FCLPが硫黄島で行われても岩国との間を行き来する。騒音は23年度が移設後で最も多い。現在進行形の問題だ。
岩国でFCLPが行われれば、近年にないごう音は避けられない。25年前は昼夜問わずタッチ・アンド・ゴーが繰り返され、「子どもがおびえる」「眠れない」といった苦情が市に相次いだ。騒音は最大100デシベルと、電車が通過する時のガード下に相当した。滑走路から約8キロ離れた地域でも90デシベルだった。広い範囲で普通の会話ができない状況になる恐れがある。
かつて厚木基地の近くでその爆音を聞いたことがある。空が割れるように響き、見上げると恐怖を感じるほど低く戦闘機が飛んでいった。
防衛省は硫黄島からの訓練移転を見据え、鹿児島県の馬毛島に自衛隊基地を建設中だ。滑走路は27年末に完成するという。
台湾海峡有事をにらみ、岩国が米軍にとって戦略上の重要性を増している。馬毛島に訓練が移ったとして、岩国が予備施設から外れなければ実施される可能性は残る。住民の理解がないまま負担が増えていくのを危惧する。
FCLPには岩国市に加え広島県や大竹市、廿日市市も容認できぬ考えを示した。国は米軍側にはっきりと伝え、岩国での訓練を見直させなければならない。
(2025年9月15日朝刊掲載)
FCLPは、基地の滑走路を空母の甲板に見立て、戦闘機などが車輪を地面に着けた直後に離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。パイロットの感覚を養うため部隊の運用に不可欠とされる。
現在は東京・小笠原諸島の硫黄島が暫定的な訓練場になっている。このところ火山活動が続いているため、予備施設の一つである岩国に移すと一方的に通告してきた。
しかし、すんなりと受け入れられる話ではない。17年に始まった厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機移転で、岩国市は「FCLPを実施しないこと」を受け入れの条件にしていたからだ。当時の安倍晋三首相も国会で「基本的に岩国で実施することはない」と答弁した。
米軍側は「岩国で実施しない」とは明言していない。だが滑走路は民間機の飛行場にも使われている。運航や安全に影響はないのか。地元に誠意ある態度を見せるべきだ。
基地周辺の住民が憤るのは当然だ。「FCLPがあったら、米側のやりたい放題だ」。飛行差し止めなどを国に求める第2次爆音訴訟の原告団事務局長は語気を強める。
基地周辺の騒音の回数は滑走路の沖合移設を終えた10年度以降に減ったが、艦載機の移転から増える傾向にある。FCLPが硫黄島で行われても岩国との間を行き来する。騒音は23年度が移設後で最も多い。現在進行形の問題だ。
岩国でFCLPが行われれば、近年にないごう音は避けられない。25年前は昼夜問わずタッチ・アンド・ゴーが繰り返され、「子どもがおびえる」「眠れない」といった苦情が市に相次いだ。騒音は最大100デシベルと、電車が通過する時のガード下に相当した。滑走路から約8キロ離れた地域でも90デシベルだった。広い範囲で普通の会話ができない状況になる恐れがある。
かつて厚木基地の近くでその爆音を聞いたことがある。空が割れるように響き、見上げると恐怖を感じるほど低く戦闘機が飛んでいった。
防衛省は硫黄島からの訓練移転を見据え、鹿児島県の馬毛島に自衛隊基地を建設中だ。滑走路は27年末に完成するという。
台湾海峡有事をにらみ、岩国が米軍にとって戦略上の重要性を増している。馬毛島に訓練が移ったとして、岩国が予備施設から外れなければ実施される可能性は残る。住民の理解がないまま負担が増えていくのを危惧する。
FCLPには岩国市に加え広島県や大竹市、廿日市市も容認できぬ考えを示した。国は米軍側にはっきりと伝え、岩国での訓練を見直させなければならない。
(2025年9月15日朝刊掲載)