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指先で願う平和 千羽鶴ささげる 全盲の松山さん 被爆80年で広島訪問

 鳥取市に住む視覚障害者の松山嘉江(よしえ)さん(83)が、指先の感覚を頼りに1センチ大の鶴を折り続けている。被爆80年の今年6月、一念発起して広島市を訪問。平和記念公園(中区)の原爆の子の像に千羽鶴をささげた。このとき案内してくれた原爆資料館ピースボランティアの大西知子さん(76)=東区=とも縁を深めた。

 2・5センチ四方の小さな紙。巧みに折り目をつけながら、鶴を完成させるまで1~2分だ。松山さんは「(全盲であることは)問題になりませんよ」と手を動かす。

 32歳ぐらいから視力の異変を感じ、70歳の頃失明した。最初に鶴を折ったのは、既に光を失っていた約10年前。入院していた夫の妹に千羽鶴を贈った。通常の4分の1の大きさの折り紙で鶴を作る視覚障害者がいることをラジオで知り、「私にもできるかな」と挑戦を始めたという。

 松山さんは、父が戦死しており顔も知らない。とはいえ、これまで戦争や原爆被害について特別意識したことはなかった。「何かしなくては」という心境に至ったのは、今年が被爆80年の節目だったから。完成させた千羽鶴を手に、知人の付き添いで電車と新幹線を乗り継ぎ、広島へ向かった。平和記念公園のガイドもする大西さんに、原爆の子の像へ案内してもらった。

 大西さんは、松山さんの姿が「奇跡の人」ヘレン・ケラーと重なり「魂が動かされる感覚だった」と語る。先月、感激の思いから鳥取市を訪れ、松山さんと再会した。「来年また広島へ来ませんか。各国から訪れる人たちにも教えて、折り鶴の輪を広げましょう」と提案。松山さんは「お役に立てるなら」と喜んだ。次は広島で会う約束をした。(土井誠一)

(2025年9月15日朝刊掲載)

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