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社説・コラム

社説 安保関連法成立10年 「平和国家」の変節 検証を

 戦後日本の防衛政策を大きく転換し、自衛隊の任務を拡大した安全保障関連法の成立からきょうで10年になる。集団的自衛権の行使を容認し、要件はあるものの海外で武力行使などを可能にした。

 問題は、違憲が指摘されている上、運用実態が見えず妥当性などの議論が十分なされていないことだ。不戦を誓ったはずの「平和国家」の姿を厳しく検証する必要がある。

 この10年、政府が定義するところの「存立危機事態」や、他国軍を後方支援する「重要影響事態」が起きなかったのは幸いである。

 しかし、平時に自衛隊が他国の艦艇などを守る「武器等防護」と呼ばれる活動は常態化している。同盟国の米軍だけでなくオーストラリアや英国も対象に加わった。2024年までに150件の実績があるという。

 護衛する艦艇が武装集団などから攻撃を受ければ、自衛隊は武器使用の判断を迫られる。だが運用実態は「特定秘密」を理由に明かされていない。安保上の機密はあるにせよ、付帯決議に盛り込まれた常時監視や事後検証の仕組みを国会で整えないのは立法府の怠慢ではなかろうか。

 この間、自衛隊と米軍の運用一体化が進んでいる。岸田文雄政権時には国会審議を経ず閣議決定で、外交安保の基本指針である国家安全保障戦略に敵基地攻撃能力(反撃能力)保有が明記された。

 防衛費は第2次安倍晋三政権発足前に組まれた12年度の約4兆7千億円から、26年度は概算要求段階で約8兆8千億円と膨張している。殺傷能力の高い戦闘機の共同開発も英国やイタリアと進めている。専守防衛は形骸化しているといえよう。

 国際情勢は今、冷戦後最悪ともいわれる。日本周辺でも、覇権主義を強める中国を念頭に台湾有事なども取り沙汰されている。だが武力に武力で対峙(たいじ)すれば、「抑止力」の名の下、際限ない軍拡競争に陥るだけである。

 政府は過去に、集団的自衛権の行使例として中東ホルムズ海峡での機雷掃海を挙げていた。ことし6月、米国がイランの核施設を攻撃し、イランで対米報復として海峡封鎖といった強硬論が拡大した。

 結果として封鎖に至らなかったが、自動車輸出や石油輸入ができなくなり、日本の経済や国民生活へ影響が大きいと判断されれば、「存立危機事態」として自衛隊派遣があり得たかもしれない。政府は想定した対処方針を可能な限り説明すべきだろう。

 安保関連法成立による社会的影響の側面にも目を向けたい。数の力で異論を押し切り、肝心なことを国会審議を経ずに閣議で決定してしまうような政府与党のやり方が、国民に諦観をもたらし、批判や不安の声を封じ込めていないだろうか。

 何より周辺国との対話こそ日本の外交の基軸であり安全保障のための最優先課題であることを、政府は忘れてはなるまい。野党も現状を追認するのではなく、国会で問題を追及するなど国民に見える形で議論を深めるべきだ。

(2025年9月19日朝刊掲載)

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