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80年前の原爆 等身大で自分ごとに 広島の「演劇集団ふらっと」 来月に新作公演

重いテーマ 団員の迷いや不安も表現

 原爆について自分なりに考えてみたいが、どう向き合えばいいか分からない―。そんな人のヒントになるかもしれない朗読劇が10月にある。広島市を拠点に活動する「演劇集団ふらっと」の新作公演だ。原爆を題材にした作品を10年余り手がけてきたが、テーマの重さから劇団員が悩むことも多かった。今回はそれらの思いを反映させ、80年前の原爆と自分たちが生きる日常を近づけるよう試みる。(藤村潤平)

 舞台では母と娘が原爆の朗読劇に引き込まれていくエピソードと、劇団員の稽古場の日常の場面が切り替わりつつ進む。ヒロシマに縁のなかった母娘がどのように原爆に興味を持ち、意識するようになったかをたどり、やがて物語は交差する。

 この新作に向け、劇作家の梅屋サムさん(愛媛県新居浜市)と劇団員は半年以上かけて議論してきた。近年の観客の感想が気になっていたからだ。「素晴らしい活動」「ぜひ続けてください」。見てもらう側としてうれしく思う半面、複雑な気持ちにもなった。自分たちの活動が「特別な人によるもの」「意識高い系」と受け取られていないか…。

 劇団の源流は2010年、市民が手弁当で披露した「少年口伝(くでん)隊一九四五」にある。原爆にちなんだ井上ひさしさん作の朗読劇を地元広島で何とか上演したいと有志が動いた。その中心にいた富永芳美さん(18年に68歳で死去)がメンバーを束ねて14年に結成した。

 以来、原爆をテーマにした朗読劇に主に取り組んできた。劇団の成り立ちからも、市民の目線や手触りを大切にしてきた自負がある。だからこそ観客の声に距離を感じ、危機感を覚えた。

 加えて、被爆者の手記や詩を表現する劇団員のプレッシャーも次第に大きくなっていた。きちんと伝えられているか。誰かを傷つけていないか。「継承」という言葉も重かった。富永さんの娘で、初期から関わる梅屋さんは「重圧の中、やめられるならやめたいとみんな一度は考えたことがある」と振り返る。

 そんな思いも抱えつつ、臨んだ新作。母娘のやりとりは富永さんと梅屋さんの実話を基にし、そのリアリティーを生かした。稽古場のパートは、劇団員が原爆について日々どんなふうに話題にし、考えを深めているかを描いた。自分たちの中にある迷いや不安も素直に表した。

 俳優と制作スタッフを兼ねる三輪京子さん(64)=東区=は「原爆の話は怖いし嫌だという人の気持ちも分かる。日常の延長上で普通に話せることを飾らずに見せたい」と思いを込める。

 原爆を身近に引き寄せる仕掛けがもう一つある。上演とセットで、哲学者の永井玲衣(れい)さん(34)を交えた対話の場を設けた。「わたしのげんばく」をテーマに出演者やスタッフ、観客が互いの声を聞き合う。その場にいる全員が自然体でじっくり向き合う時間をつくる狙いだ。聞くだけの参加もOKという。

 ふらっとの公演「わたしが生きたかった未来を生きるわたしへ」は10月4日午後2時、5日午前10時半と午後2時半、広島市中区の合人社ウェンディひと・まちプラザで。前売り券は社会人2500円、学生・広島県外在住者2千円など。詳しくはインスタグラムの公式アカウントで案内している。三輪さん☎080(5626)3788。

(2025年9月22日朝刊掲載)

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