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連載・特集

戦争と美術、美術と平和 <4> 名井萬亀 「破滅」(1952年)

原爆の記憶 絵馬に込め

 3回にわたって紹介してきた夏の所蔵作品展だが、最後の展示室では多様に展開した戦後の美術を紹介する。その多様さは終戦によって自由な表現が可能になったからだともいわれるが、同時に各作家の戦争体験も大きく影響しているようだ。 例えば名井萬亀(まき)の「破滅」は絵馬として制作されたものだが、「復興の最中に破滅とはなんだ」と受け取りを拒否されたというエピソードが伝わる。作者は早くから技術や知識に頼らない原始的な表現を用い、やがて抽象表現を追求した。そのため原爆ドームを見たまま描いたこの作品は大変珍しい例だ。戦時中に長男を亡くし、画家としての名声を築いた戦前作も、そのほとんどを原爆で失った名井にとって、描画スタイルを変えてでも「破滅」という題の絵馬を奉納することに意味があったのだろう。

 ぜひ本物を前に、それぞれの作家の思いと表現を直接感じて頂きたい。(広島県立美術館主任学芸員・角田新)=おわり

 「戦争と美術、美術と平和」は、広島市中区の広島県立美術館で10月5日まで。会期中無休。

(2025年9月24日朝刊掲載)

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