×

連載・特集

戦争と美術、美術と平和 <3> 入野忠芳 「原爆ドームの内壁」(1956年)

破壊の爪痕 閉塞感漂う

 現在、核兵器の廃絶や恒久平和を求めるシンボルとなっている原爆ドームは、戦争の悲惨さを物語る証人として、多くの画家により絵画化されてきた。ヒロシマ以後を生きる画家にとって、ドームを描くことは、特別な意味を持つともいえるだろう。

 「原爆ドームの内壁」は、作者・入野忠芳が高校生時代に描いた画業最初期の作。現在は立ち入れない内部空間を描き、建物への出入り規制がなかった当時を伝えている。丹念に絵の具を塗り重ねて表現した壁に残るのは、経年劣化による損耗とは異なる、破壊の荒々しい爪痕。画面中央と左の壁には開口部があるが、空と同様に暗い色で覆われ、先行きの見えない閉塞(へいそく)感や孤独感すら感じさせる。

 ヒロシマを基点としつつも、あの日の再現から離れ、より普遍的な表現を目指した作者にとって、ドームに身を置き、対峙(たいじ)した本作は、創作の基軸と新たな方向性を手にした画業の始点であったのかもしれない。(広島県立美術館主任学芸員・藤崎綾)

 「戦争と美術、美術と平和」は、広島市中区の広島県立美術館で10月5日まで。会期中無休。

(2025年9月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ