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社説・コラム

社説 日米首脳の国連演説 国際社会の分断防がねば

 国連総会一般討論が米ニューヨークの国連本部で始まり、日米の首脳に演説の順番が回ってきた。

 先に弁舌を振るったのはトランプ米大統領だ。創設80年の国連について、世界平和を保つ役割を果たさず「機能不全に陥っている」と批判。国際協調に背を向け、米国第一主義を誇ってみせた。おなじみのトランプ節とはいえ、現下の国際情勢に照らせば容認できない発言ばかりだった。

 今回の総会のメインテーマは中東情勢だ。イスラエルはパレスチナ自治区ガザに執拗(しつよう)な攻撃を続け、地上侵攻で犠牲者はさらに増えている。停戦への圧力を強めようと、国連加盟国の8割を超す約160カ国がパレスチナを国家として承認した。

 正反対の動きを見せたのがトランプ氏で、演説でイスラエルを擁護。同じ先進7カ国(G7)の英国、カナダ、フランスの3カ国まで加わったパレスチナの国家承認を、イスラム組織ハマスへの「報奨」になるとして反対した。

 さらに米政権は、パレスチナ自治政府やパレスチナ解放機構(PLO)の関係者のビザ発行を拒み、自治政府のアッバス議長が国連本部の演台に立てないようにした。あまりに姑息(こそく)な手段ではないか。

 言いたい放題のトランプ氏にくぎを刺したのはフランスのマクロン大統領だ。演説で国連を擁護し、中東情勢では「非武装化されたパレスチナ国家がイスラエルを承認し、イスラエル国家がパレスチナを承認することこそ平和の道だ」と2国家共存による和平の実現を訴えた。

 双方に歩み寄りを促す。これこそ仲介外交で日本が担うべき役割だが、石破茂首相の演説を聞く限り、その意識は乏しいと言わざるを得ない。

 日本政府がパレスチナ国家承認を見送ったことについて「するか否かではなく、いつ承認するかの問題だ」と述べた。なぜ今ではないのか。同じような疑問は核兵器禁止条約への対応でも感じる。

 被爆国なのに歴代政権は「核保有国が一カ国も参加していない」として参加していない。逆に米国の「核の傘」への依存を深める一方だ。

 石破氏は演説で条約参加を求める声があることに触れたが、各国指導者に広島、長崎訪問を促すといった従来の政府見解の域を超えなかった。

 退陣を来月に控える石破氏には最後の国連の舞台。戦後80年でもあり、原稿を10回以上練り直したという。先の大戦の加害を踏まえ、アジア諸国は戦後日本を受け入れるに当たり「計り知れないほどの葛藤があったはずだ」と述べ「寛容の精神」に支えられてきたとの認識を示した。石破カラーを感じた場面である。

 「全体主義や無責任なポピュリズムを排し、偏狭なナショナリズムに陥らず、差別や排外主義を許さない健全で強靱(きょうじん)な民主主義」を育て、守る重要性も説いた。その前提となる法の支配や自由貿易とは全く逆の方向に突っ走っているのがトランプ氏だろう。

 米国の顔色うかがいではなく、日本は「分断から協調へ」の旗を振るべきだ。

(2025年9月25日朝刊掲載)

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