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連載・特集

戦争と美術、美術と平和 <1> パウル・クレー 「内なる光に照らされた聖人」(1921年)

国策 芸術家の運命を左右

 総力戦となった第2次世界大戦では、国家の政策が芸術家の運命を大きく左右した。例えばドイツでは、ナチスの政権掌握後、伝統から逸脱する前衛的な作品は、不健全な「退廃芸術」と定義され、次々と芸術家が弾圧された。

 20世紀ドイツを代表する画家パウル・クレーは「世界が恐怖に満ちていればいるほど、芸術は抽象的になる」と述べた。その作品は狂気じみた子どもの殴り書きに過ぎないと揶揄(やゆ)され、教職を追放されただけでなく、国内の美術館が所蔵していた130点余りの作品が収蔵にふさわしくないとして没収された。

 1937年、前衛美術をおとしめる目的で開催された「退廃芸術展」では、彼の作品も15点展示された。そのうちの1点が「内なる光に照らされた聖人」である。戦争が人を、芸術をいかに翻弄(ほんろう)してきたのか、本作などを通じて感じていただきたい。(広島県立美術館主任学芸員・山下寿水)

 広島市中区の広島県立美術館で開催中の所蔵作品展「戦争と美術、美術と平和」から4点を紹介する。同展は10月5日まで。会期中無休。

(2025年9月19日朝刊掲載)

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