社説 [地域の視点から] 岩国でFCLP終了 地元との関係 軽んじるな
25年9月28日
米軍岩国基地(岩国市)で在日米海軍が実施していた空母艦載機による陸上空母離着陸訓練(FCLP)が終わった。7日間にわたり、周辺住民は騒音にさいなまれ、ストレスを感じただろう。わがこととして受け止めたい。
基地周辺で人が「うるさい」と感じる70デシベル以上の騒音を5秒以上記録した回数は、約1500回に上った。市には1064件の苦情が寄せられた。夜もうるさくて眠れない、会話やテレビの音が聞こえない、お年寄りが休めない…。暮らしを乱された住民からは憤り、うんざりする声が漏れてきた。
訓練では、空母艦載機が上空を旋回し、着地と同時に出力を上げて上昇する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返した。岩国基地での実施は2000年以来だった。米軍は地元の反対を一顧だにせず、訓練を強行したように見える。
さらに許せないのは、防衛省が出した事前通告が守られなかったことだ。訓練は平日の午後1時半~4時半と午後6時45分~9時45分のはずだった。しかし連日超過し、24日の日中は約2時間もオーバーした。
祝日で訓練がないはずの23日にも実施された。米側は後日、訓練の事実を認めたが、運用上の理由から詳細の説明はなかった。林芳正官房長官は訓練の日時が天候や機体の状況など「不測の事態により変更があり得る」と米側から伝えられたことを明らかにした。地域との信頼関係をどう考えているのか。疑念が拭えない。
住民は通告をもとに心構えを整えて、生活の予定を立てていたはずだ。一方的にその内容を破りながら、謝罪や説明をしない姿勢はどうだろう。地元との関係を軽んじているのではないだろうか。
今回の訓練は、普段訓練をしている硫黄島(東京都)で火山活動が続いているため、予備施設の岩国基地で行われた。ただ厚木基地(神奈川県)から空母艦載機が岩国に移転した際、岩国市は「FCLPを実施しないこと」を受け入れの条件にしていた。当時の安倍晋三首相も国会で「基本的に岩国で実施することはない」と答弁している。
山口県と広島県の関係自治体は、防衛省や外務省に抗議し、米側に訓練をさせないよう働きかけを求めた。国は地元の思いを米側にしっかりと伝えなければならない。
訓練の終了を受け、岩国基地周辺では「ようやく静かになった」と安心が広がった。だが、硫黄島では航空基地に燃料を供給するパイプラインなどに被害が出ているという。訓練ができない状況が続けば、岩国で再び行われる可能性は否定できない。
国防のため、どこかで訓練をする必要があるにしても、訓練場所の住民の理解と納得は欠かせない。それなくして訓練が繰り返されれば、両国の協力関係にも問題が生じかねない。米軍と日本政府は肝に銘じるべきだ。
(2025年9月28日朝刊掲載)
基地周辺で人が「うるさい」と感じる70デシベル以上の騒音を5秒以上記録した回数は、約1500回に上った。市には1064件の苦情が寄せられた。夜もうるさくて眠れない、会話やテレビの音が聞こえない、お年寄りが休めない…。暮らしを乱された住民からは憤り、うんざりする声が漏れてきた。
訓練では、空母艦載機が上空を旋回し、着地と同時に出力を上げて上昇する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返した。岩国基地での実施は2000年以来だった。米軍は地元の反対を一顧だにせず、訓練を強行したように見える。
さらに許せないのは、防衛省が出した事前通告が守られなかったことだ。訓練は平日の午後1時半~4時半と午後6時45分~9時45分のはずだった。しかし連日超過し、24日の日中は約2時間もオーバーした。
祝日で訓練がないはずの23日にも実施された。米側は後日、訓練の事実を認めたが、運用上の理由から詳細の説明はなかった。林芳正官房長官は訓練の日時が天候や機体の状況など「不測の事態により変更があり得る」と米側から伝えられたことを明らかにした。地域との信頼関係をどう考えているのか。疑念が拭えない。
住民は通告をもとに心構えを整えて、生活の予定を立てていたはずだ。一方的にその内容を破りながら、謝罪や説明をしない姿勢はどうだろう。地元との関係を軽んじているのではないだろうか。
今回の訓練は、普段訓練をしている硫黄島(東京都)で火山活動が続いているため、予備施設の岩国基地で行われた。ただ厚木基地(神奈川県)から空母艦載機が岩国に移転した際、岩国市は「FCLPを実施しないこと」を受け入れの条件にしていた。当時の安倍晋三首相も国会で「基本的に岩国で実施することはない」と答弁している。
山口県と広島県の関係自治体は、防衛省や外務省に抗議し、米側に訓練をさせないよう働きかけを求めた。国は地元の思いを米側にしっかりと伝えなければならない。
訓練の終了を受け、岩国基地周辺では「ようやく静かになった」と安心が広がった。だが、硫黄島では航空基地に燃料を供給するパイプラインなどに被害が出ているという。訓練ができない状況が続けば、岩国で再び行われる可能性は否定できない。
国防のため、どこかで訓練をする必要があるにしても、訓練場所の住民の理解と納得は欠かせない。それなくして訓練が繰り返されれば、両国の協力関係にも問題が生じかねない。米軍と日本政府は肝に銘じるべきだ。
(2025年9月28日朝刊掲載)